ダークエルフの憂鬱
「ソフィーじゃないか」
「お久しぶり。もうこの地帯には用がなくなったと思っていたわ」
「そうも言っていられなくなった。ノスフェラトゥが現れたとあっては」
カウンターに肘を置いて、ソフィーがオレたちに向けて身を乗り出す。
「あたしも協力するわ」
「死ぬかも知れないよ」
「構うもんですか」
おいおい、穏やかじゃねえな。
「なんか、訳ありみたいだな?」
「その通りよ」
ソフィーは、婚約者をノスフェラトゥに殺害されたという。
騎士団はろくに調査をせず、魔物に襲われて死んだと判断した。
近くの洞窟をさらっただけで調査を終える。
自分に家族はいらないってのは、こういうことか。
大事な人を亡くしたから。
「だったら、あんたには外れてもらうしかない」
何をバカな、といった顔を、ソフィーは見せた。
「あたしは情報屋よ。何でも頼んでちょうだい」
「あんたの目は、もう死んでる。それじゃ、まともな情報も霞んじまう」
「あの時のあたしは死んだの。ほっといてちょうだい!」
オレに凄んで、ソフィーがカウンターを叩く。
「ほっとけないね!」
オレは、ソフィーを逆に睨み返した。
「いいか、あんたは今、冷静さを欠いている。それじゃあ簡単な罠にさえ引っかかってしまうだろう」
「生意気な口を叩くのね、ガキのくせに」
「あんたによく似た舎弟がいたんだよ」
そいつは死を恐れていなかった。
死を恐れないヤツは、死ぬのも早い。
あっけなく、舎弟は死んだ。自分のダチに眉間を撃たれて。
享年は二一歳だったっけ。
腹の大きい嫁さんに、なんて報告したのかすらも思い出せない。
オレにできたのは、仇を討ってやれただけ。
それだけ、オレの中ではトラウマになっている。
「アンタの方がガキじゃないの」
「色々あるんだよ、男には」
やはり、この身体では説得力がなかったらしい。
「ま、オレたちに任せな。あんたは、くれぐれもノスフェラトゥに関わらないこった」
オレが言い終わる前に、ソフィーはギルドを出た。
「キミとソフィーって、一向に仲がよくならないね?」
カミュがため息をつく。
「似たもの同士、だからかもな」
昔のオレも尖っていた。
組長と知り合ったときも「オレに家族はいらねえ!」って拒絶して。
だが、声をかけてもらってよかったと、今では思っている。
閉じていては、何も生き方が変わらない。
組長は、オレに色々な手ほどきをしてくれた。
「オレも、組長を受け入れるまで、結構時間がかかったな」
一度、頑なになっちまうと、簡単には受け入れがたい。
「無茶はしねえと思うけど、見張っていた方が無難だよな」
しばらく、ソフィーのことは適度に距離を置くことで、カミュと話が付いた。
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