玄関開けたら二分でゾンビ

 屋敷の前が、妙に騒がしい。

 人の気配が、多数感知できる。

 かといって、敵意は感じないが。


「誰だ?」

 オレは玄関のドアを開ける。


「あうー」


 オレは、玄関のドアをそっと閉じた。


 今の、ゾンビだったよな? オレの見間違いか? 

 もう一度開けてみる。


「あうあうー」

 玄関前に立っているのは、冒険者風のゾンビだった。

 まごうことなきゾンビが。


「うお!?」

 間違いない。

 

 屋敷の前に、大量のゾンビが集まっていた。

 ノックの音が激しくなっていく。


「なんだこりゃあ!?」


「トウタス、朝からなんだい騒々しいね、って、うわあ!」

 起きてきたカミュも、目の前の光景に困惑している。


 ドアを閉めようとしたが、扉を掴まれた。

 このままでは、屋敷の中に入られる。


「カミュ、タマミを頼んだ。オレが時間を稼ぐ!」


「分かった。無茶はするなよ!」

 カミュがエントランスから部屋に移ろうとした時だった。


「待ってぇ! 話があります!」

 あうーと手を伸ばしながら、ゾンビどもはオレの肩を掴んだ。

 うええ。


 タマミやサティも呼んで、ゾンビたちの言い分を聞くことに。


「実は我々、ノスフェラトゥに命を奪われた者たちです」

 ゾンビ共は、生前の記憶を遡るかのように、ゆっくりと話す。


「どうして、ここが分かった? グールにも見つからないようにしているんだぜ?」

「アニキの血を辿って」

「どこでオレの血を?」


「下水道です」


 話を聞いて、カミュがポンと手を叩く。

「そういえばキミ、背中を切り裂かれた時、大量に出血したよね?」


 ゾンビだから、気にしていなかった。

 オレの血が下水を伝って、コイツらに触れたらしい。


「アニキの血が、地下で死んでいるオレたちに付着して、ゾンビとして生まれ変わったんです」


 だが、ここまで来るのに数日かかったという。

 カミュの幻術で迷っていたせいだった。


「お願いがあります。アニキのそばに置いてくだせえ」「オレたちも、ノスフェラトゥが憎い!」

「奴らを道連れにしなければ死んでも死にきれないわ」

 男女問わず、ゾンビらは口々にノスフェラトゥへの怒りをぶちまける。


「仲間が増えるのはありがたいが、カミュの許可がなければなぁ」

「構わないよ。そこまでゾンビ化していたら、食糧には困らない。雑草を食べても生きていける」

「もちろんです。お手間は取らせません。廃棄物で結構です」


「そんなのダメ!」と、タマミは抵抗した。

 が、ゾンビ共曰く、調理されたモノの方が食べられないんだとか。

 それならば、と、タマミは納得した。


「そうだ、お前らノスフェラトゥにやられたって言っていたよな?」

 あぐらを掻いたまま身をのりだして、オレはゾンビ共に問いかける。

「他に有力な情報があったら、教えてくれるか? キャンデロロの息が掛かっている奴らの弱みや、どのモンスターと組んでいるか」

「お安いご用で」

「全部、カミュに教えろ。オレの親分だ」


 オレはカミュをゾンビ共に紹介した。

 カミュがオレを雇っていると知ると、彼らは火がついたように情報を吐き出す。


「凄い。これだけの情報があれば、リ・ッキを一網打尽にできる。でも、どうして彼らから情報を得ようなんて思いついたんだ?」


「昔な、双六みたいな遊びを、姐さんに教わったんだ」


 テーブル・トークというヤツだ。ゲーム内の登場人物になりきって、紙面上で冒険を行う非電源ゲームである。


 オレの持ちキャラは、新聞記者だった。敵に関する弱点を、危険を冒してゲット。あとは無事に帰るだけ。

 だが、仲間と合流する直前で、オレは敵に撃たれて死んだ。

 いわゆる「情報の抱え落ち」という事態に見舞われたのである。

 おかげで、パーティは敗北した。


「情報の抱え落ちってのは、よくある現象なんだ。だが、ゾンビ化できるなら、それも防止できる」


 敵は、こちらが情報を掴めないで歯噛みしていると思い込んでいる。そこを突くのだ。


「もし奴らの隙を突いて、後ろからバッサリできたら、奴らは混乱する」

「うん。こちらが有利になるね」


 そうと決まったら、やるべきことは一つだ。


「お前らの仲間が殺された場所を、思い出せる範囲で教えてくれ」

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