シマはヘルツォーゲンベルク城

 バーの地下に、新しいギルドができたと聞いたので、カミュと一緒に尋ねてみた。


「いらっしゃい」

 取り仕切っているのは、ソフィーだ。


「あんた、指導者側に回ったのか」

「若手の育成をしているわ。鍵開けや毒見、隠密行為の」


 相手はゾンビだが。


「ちょっと、そこっ! 昔の癖が抜けていないわよ。鍵穴じゃなくて、鍵自体にトラップがあるの! 鍵の方をよく見て!」


「あうー」

 若きゾンビシーフは、鍵開けに悪戦苦闘しているようである。


「あの子、宝箱を開けようとして、手を吹き飛ばされたの。治療班を誰も連れてなくて、出血多量で死んだわ」


 よく見ると、そのシーフは右腕と左腕が均一ではない。

 誰かの腕を継ぎ接ぎしたらいい。


「ところで、新しい情報はないか?」


「これなんだけど」

 ソフィーが見せた紙には、依頼内容が書かれていた。


「フェロドニアから海沿いに東へ行った辺りに、ヘルツォーゲンベルク城跡があるの。そこにモンスターが集結しているらしいわ。魔物と街とで大きな戦が起きるんじゃないかって」


 騎士団が警戒しているが、数が多すぎて攻めあぐねている。


「ヘルツォーゲンベルク城を、魔物が占拠しているのか」

 カミュが、険しい顔になる。

「ありがとうソフィー。行こうか、トウタス。古城へ」

 話を聞いた足で、カミュはすぐに討伐依頼を受けた。


「妙にやる気を出してるじゃねえか。いつも慎重なのに」

「ボクの父上と、ヘルツォーゲンベルク卿は懇意にしていたんだ。時々コレクションを見せ合いっこしていたそうだよ」


 だが、カミュが生まれる前になくなったらしい。

 コレクションも、カルンスタイン伯爵が預かった。


「父の友達は、ボクの友達だ。友達の家がモンスターに荒らされているなんて許せない」


「なるほど、カミュにとってその古城は『シマ』ってわけか」


「シマって?」

「縄張りのことだよ」


 任侠って言やあ、縄張り拡大だよな。


「いっそ、勢力を拡大するか?」

 カミュと組めば、きっとドデカい組織になる。


「ボクは、リ・ッキさえ倒せればそれでいいよ」


 それもそうか。

 オレだけ張り切っても仕方ない。

 ここはカミュに従う。


「仲間はいいか? 攻めるなら大勢居た方が」


「彼らには、悪党共の始末を頼みたい。ボクたちがリ・ッキを追い詰めている間に、住民たちの安全もまもる必要がある」


 今は貴重な兵隊を失いたくない。

 大将の首を取って、ひとます奪還とするか。


「よっしゃ。そうと決まれば行くか」

「待って。その前に、バラドの店で準備しよう。もういい頃合いだろう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る