さらば愛しのダークエルフ

「どうしたの、こんな所に呼び出して」


 街の片隅にある大きな樹の下に、ソフィーを呼び出す。


「愛の告白、ってワケじゃなさそうね。そんな小さなレディを連れているもの」


 オレは、タマミを連れてきていた。

 どうしても、タマミの力が必要だったから。


「実はよ、お前の恋人なんだが、もうなくなっていると分かった」


「自分で調べたわ! 余計なことしないで!」


「いや、世話を焼かせてもらう。そいつから頼まれたからな」

「誰に?」

「あんたの恋人からさ」


 案の定、ソフィーは、オレの言葉をまともに捉えなかった。


「何を言うの? そんなの、分かるわけないわ。どんなオカルトよ、それ。霊でも呼び寄せたの?」


「その通りだ。このタマミは、霊とコンタクトを取れる。あんたの恋人に会ったんだよ」


 オレに続いて、タマミが口を開く。

「ソフィーさんの好きなおじさんが、この下を掘れって。大事な情報を隠したんだって」


 目の色を変えて、ソフィーは樹の下の土を、ナイフの先で掘り出した。


「キャンデロロに金が不正に流れていた証拠の帳面ね! こんな所に隠してたのね」


 一心不乱に土を掘り出すソフィーを見ながら、オレは、タマミの手を強く握りしめる。


 鉄の小箱が、土から顔を出す。

 狂気じみた笑みが、ソフィーから零れた。

「やっぱり、死んでもあの人は信念を貫き通す人だった! 彼の正義は、あたしが引き継いで――」


 出てきたか。


 ソフィーの顔から、不敵な笑みが消えた。


「なによ、なによこれ!?」


 口を抑えながら、ソフィーは嗚咽を漏らす。



 鉄の小箱には、手紙が入っていた。指輪と共に。



「もう、キミはキャンデロロに関わってはいけない。仕事を降りろ。僕も事業から手を引く。けれど捕まって殺されるだろう。これを見つけたら、キミだけでも逃げてくれ。愛している」



 手紙の内容を、寸分違わずタマミが告げる。

 タマミは文面を一切見ていない。霊が教えてくれているのだ。


 箱には、エルフ族でしか開けられない、魔法の細工が施されている。

 精霊銀を差し込み、エルフ自身の魔力を注ぎ込まないと開けられない。

 よって、この小箱は、たった今開けられたばかりなのである。

 

 文面が本物だと知って、ソフィーは涙に暮れていた。


「ここは、あんたらの思い出の場所らしいな。だから、この手紙も、あんたなら探し当てられると思ってたらしい。けれど、あんたはずっと、現実から目をそらしていた。だから、探し当てられなかった」


 手紙を隠したのは、自分がソフィーと繋がっていると知られたら、ソフィーまで巻き込んでしまうと思ったからだ。


「協力するわ」


「あんた、何を言って」

 オレは、彼女に諦めてもらうことが目的だったんだが。


「違う。これは、復讐のためなんかじゃないの。あたしのような人をもう増やさないために、協力させてちょうだい」


「分かった。そこまで言うなら、あんたを受け入れるぜ」


 ソフィーはうなずいて、今度はタマミの頭を撫でた。

「ありがとう。小さなネクロマンサーさん」


 タマミは頭を下げる。

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