ふえるゾンビちゃん

「こいつらはどうするんで?」


 盗賊の遺体を前に、オレは考える。

 蘇生処置をしてどうなる? オレに従うのか?

 その可能性は低い。こいつらは末端だ。

 ロクな情報も持っていないだろう。

 むしろ、裏切られる可能性が大だ。

 なにより、さっき自分たちを殺した相手と手を組むなんて、ありえない。


「騎士団に報告しよう。カミュもそれでいいか?」

「そうだね。それが懸命だ」


 騎士団に報告し、小屋まで来てもらった。

 ゾンビ共は、屋敷に帰している。


「これだけの数を、お前たちが?」

 中年の騎士団長が、オレたちを怪しんだ。


「毒で勝手に弱体化したんだよ」

 オレは、数匹の毒モンスターを持ってきていた。

 これでほとんどがやられたことになっている。


「まあよい。ギルドカードを更新しておけ」

「へいへい」

 後始末を騎士団に任せ、オレたちは屋敷へと戻った。


「カミュ、ゾンビ増殖作戦だけどよ、案外やれそうだな?」

「そうだね。相手は完全に油断している。うまくいけば、逆転できるかも」


 ギルドでカードを更新しながら、これからのことを話し合う。 

 

 その後、手当たり次第に、オレは墓場や殺害現場に向かった。

 死体を見つけては、杯を使って、次々とゾンビにしていく。


 この杯の凄いところは、殺される前の記憶を残して復活する点だ。

 兵隊にする前に、きちんと情報を聞き出した。

 次の段階として、今後の活動内容を選んでもらう。


「いいか。オレについていくなら、一生ゾンビとして生きることを強いられる。楽になりたきゃ成仏させる」


 自動翻訳で「成仏」の意味が、異国でもちゃんと伝わっているのが救いだ。


 オレがゾンビとして蘇生させた奴らは六〇〇人を超えた。

 三割がオレの配下に。残りは天に召された。非戦闘員が多かったからだ。


 ゾンビを増やしていくウチに、新たな発見も。

 タマミが、ゾンビに取り憑いた幽霊と話していたのだ。


「なんか、ついて来ちゃったみたい」

 死体が完全に焼失してしまったため、幽霊となって出てきたという。


 タマミが話を聞いてくれるためか、続々と亡霊たちは屋敷に集まってきた。


「お兄ちゃん、わたしもお手伝いするよ」

 モップの柄を掴みながら、タマミは言う。


 幽霊となっている連中は、すべてタマミが引き受けてくれた。

 タマミも、役に立てて嬉しいようである。


 彼らから得た情報を、カミュが集め、オレが指揮を執ってカチコミへ向かった。

 魔物との取引がどこかで行われたとなれば、襲撃する。

 その間に、カミュがノスフェラトゥの情報を集めるのだ。


 だが、もう一つ問題を片付けなければならない。


「ソフィーの恋人の話で、有力な情報はないか?」

 ゾンビは口を閉ざす。


「その方は、冒険者じゃありませんの。フェロドニアで強い力を持った貴族でしたのよ」

 女狩人のゾンビが言う。


 エルフながら、貴族として人間と接していたという。


「あの野郎は、深入りしすぎたんでさぁ。あいつだけ連れて行かれて、何日も監禁されたらしいです。キャンデロロ男爵は、自分の周囲を嗅ぎ回っている連中が誰なのか聞き出そうとした。が、一切口を割らなかったそうで」


「おそらく、生きてはおるまい」

 当時を振り返って、中年の冒険者コンビが語る。

 相当辛かったのか、口調が重い。


「ワシらも救出作戦を決行したが、返り討ちに遭って」


 そいつらは、以前にオレたちが倒した連中だったという。


「スカッとしやした。アニキは強いっすね」

 会話の中で、オレは、思いついた案をゾンビらに伝える。

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