亡霊銀 ミ・スリラー

 バラドの店に立ち寄り、装備品を受け取りに行く。


「お前さんの注文、できとるよ」

 奥から出てきたバラドが、オレにアイテムを放り投げる。


 これだよ、これ。

 サングラスだ。

 ドラゴンが黒い羽を広げている形状に似ていることから、『ワイバーン』というメーカー名に。

 模造品だが、寸分違わぬ出来だ。


「それは、なにか特殊効果があるのかい?」

「日差しを防いでくれる。それだけだ」


「趣向品か。そういう余裕も大事だね」


 とはいえ、本命は長ドスとチャカである。


 長ドスの素材は、リクエスト通りの白鞘だ。


「白鞘だと、つなぎが弱いんじゃ?」


 カミュの指摘は正解である。


 本来白鞘とは、刃を休ませるためのいわば『寝間着』だ。

 実戦には使いづらい。

 これでファンタジー世界を戦い抜こうなんて、任侠映画の見過ぎだ。


 全部、姐さんの指摘である。


 それでも、ヤクザ映画好きのオレは、白鞘カタナに拘った。


「ワシを誰だと思ってる? ちゃんと対策済みだっつの」

 腰に手を当てて、バラドは胸を反らす。


「なんだこれ、羽根のように軽い」

 手の平に載せても、軽々と持ち上がった。


「手に吸い付いてくる」

 カタナの柄が、手にフィットしている。

 乱暴に振り回しても、バトントワリングのように扱っても、手から一切離れない。

 手と一体になっているかのようだ。


「すげえ。これがオレのカタナか」

「魔法使いの杖に使う樹木を柄に使ってある。刃が亡霊銀『ミ・スリラー』なのは、ぼっちゃんとお揃いだな」


 なぜか、カミュが照れくさそうにサーベルを握りしめる。

 なにが琴線に触れたのだろうか?


 それに、ミ・スリラーってなんだ? 洋楽のタイトルみたいだな。亡霊銀って言うのも初めて聞いた。


「ミスリルなら聞いたことがあるが」


「ミスリルの中でも、特殊なものだ。採掘現場近くで死んだ英雄や魔物の魂が入り込んだ、特殊なミスリル銀さ。血が混じっているから、若干薄紅色をしているのが特徴だよ」


鞘から刃を引き抜いてみる。

刀身が、見たこともない色をしていた。


「空気中の魔素を吸って自己修復する。錆びたり欠けたりしねえ。強度も申し分ねえ」


 これが『ミ・スリラー』ってヤツかよ。初めて見た。

 ミスリルじゃなくて、ミ・スリラーなんだな。 


 チャカの方も見せてもらう。これも、最高の一品だと分かる。


「どの武器も、毘沙門天の力を発動させて、強化が可能だよ」


 毘沙門天の能力に耐えられるように、魔法銀を施したとも言えた。


「ありがとうよ。大事に使うぜ」


「馬鹿野郎。使い倒せよ。そんで、しょっちゅうメンテに来い。そのたびに強化してやんよ」


 抜け目がないな、この爺様は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る