ジャガンナートと男爵


「か、勝ったのか?」


 息を整え、相手が完全に消滅したのを確かめた。


 動いてこない。どうやら倒したようだ。


『見事なり、樺島尊毘よ』


「ありがとうな、ビシャモン天。それと」


 オレは、ビシャモン天にどうしても言わなければいけないことがあった。


「今まで妹が死んだのを、あんたのせいにして、すまなかった」


 樺島ビシャモンに向かって、オレは身体を折る。


『あの事故は我のせいなり。お主は悪うない。その優しさ、今度こそ、お主の妹君に向けよ』


 ビシャモン天は、オレを責めることなく、力強い言葉をくれた。


 最後に、オレはビシャモン天に頼み事をする。

「テムジンに会う機会があったら、あんたは悪くないって告げて欲しい。あんたのおかげで、オレはまた妹と会えた。今度こそ、タマミを守ってやるって」


『うむ。その心、テムジンにも伝わっておろう』

 オレと目が合うと、樺島ビシャモン天はウインクしてきやがった。そのまま、姿を消す。


「それが、キミの新しい力かい?」

 オレの変化に、カミュが戸惑いの言葉を述べる。


「どうも、オレはゾンビから夜叉ヤクシャにっての進化したらしい」

「鬼の上位互換じゃないか。どうりで強いと思ったら」


ビシャモン天の気配がなくなっても、力が漲っていた。


 これなら、リ・ッキとも打ち負けない。確信できる。


「急ごう。タマミが」


 足を一歩出したとき、鎧から何かの気配が。

 また動き出すのか、と思ったが、邪悪な印象は受けない。


「あんたは」


 宝玉の跡から、モヤのような形で、亡霊が浮かび上がってきた。


 モヤが、オールバックの男性の形に変わる。


「キャンデロロ男爵じゃねーか」

「彼が、キャンデロロ男爵だったのか」


 男爵の表情は、悲しげだが、妙に穏やかに見えた。


「そうか。この鎧に閉じ込められていたのは、リ・ッキの方だったんだ」


 この世界に降り立ったリ・ッキは、この鎧の中に捕らわれていたのだ。邪念を放ち、自分を解き放ってくれる相手を呼び寄せた。


「男爵が触れた途端、入れ替わってしまったのか」

「多分、リ・ッキは男爵じゃなくてもよかったのかも」


 自分を解放してくれる奴なら、誰でも取り込んでやろうと。


「ずっと鎧に捕らわれていたんだね。リ・ッキの代わりに宝玉に幽閉されて、ジャガンナートを制御するためだけに魂を利用されて」


 悲しげな表情を浮かべている。タマミがいれば、何を言っているのか分かるんだろうが。


 さぞ無念だったろう。悔しかったに違いない。

「待っていてくれ、男爵さんよぉ。必ず、リ・ッキに落とし前を付けさせるからな」


 オレが語りかけると、男爵は何かを納得したのか、一度だけ頷く。

 鎧がガラガラと音を立てて崩れ去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る