剛鬼 ビシャモン!

 同時に、現実に引き戻された。

 ジャガンナートが、オレに拳を振り下ろそうとしている。


「ジンギ 剛鬼ゴウキ ビシャモン!」


 パンチを叩き付けられる前に、オレは叫んだ。

 力のままに、ジャガンナートを強引に引き剥がす。


「トウタス?」


 不思議そうな顔で、カミュがオレを見つめている。

 セェレの魔法のおかげで、傷は癒えているらしい。


「心配させて、すまん。ぶっ飛ばしてくるから待っていてくれ。セェレ、カミュを見てくれてありがとうな」

「これくらい平気だよ。それよりトウタス、後ろの人は、誰なの?」

 セェレが、オレの背中を見ながら、つぶやいた。


 妙だと思い、オレは振り返る。

 自分がどうなっているのか、確認した。

「こいつは、オレ、だ」


 オレの後ろに、オレがいた。


 樺島かばしま 尊毘とうたすが。


 腕を組んで、陽炎状になって。上半身だけで。

 だが、服装が違う。

 ビシャモン天の衣装を纏い、目つきもりりしい。


『我は、ビシャモン天なり。樺島尊毘の身体を借りて顕現した』


 声まで、転生前のオレとそっくりだ。


『トウタス・バウマー。其方は我と契約し、魔を払う存在、「夜叉ヤクシャ」となった』 


「ヤクシャ? オレは『ヤクザ』なんだが?」


『似たようなもんじゃ』


 そんなアバウトな。姐さんと同じこと言いやがって。


『恩恵は昔から与えておった。森に行っても魔物に襲われぬかったろ? あれは夜叉の技能なり』


 ビシャモン天曰く、夜叉は森の守り神らしい。


『ヤクシャとは、我、ビシャモン天の眷属を言う。お主が我の力を使えたのは、賢者テムジンが我とお主を結びつけ、お主をヤクシャと変えたからなのじゃ』


 樺島ビシャモンが、ジャガンナートを指さす。


『あやつを止めよトウタス。ヤクシャと、夜叉ヤクザとなりて』


 言われなくても、止めてやるぜ。

 今ならやれる、身体がそう教えてくれている。


 ジャガンナートの爪が、オレの肩を抉る、かと思われた。


 バチイ! という鋭い音がして、シールドの爪がひしゃげる。

 何が起きたのか分からないのか、ジャガンナートは壊れた武器を改めた。


 オレは、亀の盾を展開していない。

 体中に纏ったオーラだけで、盾を破壊したのだ。


 ドスを構え、オレは反撃の体勢に入る。


 ミ・スリラーが、聞いたこともない声を上げた。

 怨念かと思ったが、違う。


 これは、闘志だ。

 志半ばで倒れた勇者たちの魂が、オレとビシャモン天に呼応して、雄叫びを上げていた。


 刀身に鬼火が揺らめき、長い太刀の形を取る。


 ジャガンナートに、太刀をぶつけた。

 盾で防ごうとも、盾ごと真っ二つに切り裂く。

 あれだけ強固だった鎧が、刺身のようにスパッと鮮やかに両断された。


 仁王立ちしたまま、ジャガンナートは事切れている。

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