タマミがママに!?

 エントランスに入ったが、敵の気配がない。


「静かだね」

 辺りを警戒しながら、カミュは目をしかめる。


「罠か?」

「いや。外の魔物やジャガンナートに任せっきりだったようだ。それに」


 ダンスホールのある辺りから、リ・ッキの気配が。

 他の魔物も、集結しているようだ。


「ヤツはあっちだ。妨害がないウチに向かおう」

 他の部屋を一切無視して、オレたちは舞踏会場まで急ぐ。


「そうか、君とテムジンは、向こうで会っていたのか」

「大して話していないんだ。だから、面識はあってないようなもんさ」

「けど、これで分かった。やはりリ・ッキは、物質から人体に憑依して、人間を操っているようだ」


 どういうことだろうか?


「向こうの世界で、キミと同じくらいの歳に転生するには、同じ時期に生まれなくてはならない。しかし、テムジンがキミの世界に来たのは、キミが一〇歳くらいの頃だ。計算が合わない」


 ならば、リキはリ・ッキに取り憑かれたと思うのが自然と。

 キャンデロロの状況を見て、カミュはそう推理したのだ。


「キャンデロロは、さっきのジャガンナートをどこかで見つけてきて、封印されていたリ・ッキを解放してしまったんだろう」


 それより、タマミを早く助けないと。

 このままでは、タマミが「Vシネマの生娘役」みたいな目に!

 ああ、公序良俗に違反してしまう!


「ママーッ!」

 ほら、かわいそうに。おっ母を呼んでるじゃねえか。


「ん? なんか声が汚なすぎるような」


「そんな! 声まで変わっちまって! 今、助けるからな!」


 男爵邸のダンスホールへ乗り込む。


「シェリダン組だ! 神妙にしやが……れ?」


 舞踏会用のホールには、異様な光景が広がっていた。


「ママ、ママ」


「はいはい。ママはここにいますよー」


「あああママーッ!」


 泣いているオークやキマイラを、タマミがあやしている。


 その隣には、ヤンキー座りをして不機嫌な顔をするリ・ッキの姿が。


「タマミ!」


「ああ、お兄ちゃん! 助けに来てくれたの?」

 何の危機感もなく、タマミは笑顔で出迎えてくれた。


「何もされてないか?」


「うん。魔物さんにお話聞いてあげたら、懐いてきたの」

 状況が、うまく飲み込めない。


「なんかね、『バブみを感じて、オギャる』なんだって。よく分かんないね」


 キマイラの頭を撫でながら、タマミは苦笑する。


 これは、当人に聞くのが手っ取り早かろう。


「リキ、これは一体……」


「どないもこないもあるかい! 飼い慣らされてしまいおって!」


 詳しく聞くと、手下はやはり、タマミを弄ぼうとしていた。

 だが、タマミが霊との交信能力を持つと知ると、人生相談が始まったという。

 料理の腕も抜群で、今では、スピリチュアル・カウンセラーとして、タマミはモンスターたちの相談役になっている。


「手下には人質のガキに懐かれる。ワシは霊そのものやから、こいつには手が出されへん。変に触るとこっちがダメージを負ってまうからな。お前に苦痛を与えようと思っとったのに! Vシネの生娘みたいな目に遭わせたろと思うてたのにーっ!」


 そいつは残念だったな。思考まで一緒とは。


 タマミは、オレの妹だ。オレ以上に肝が据わっているぜ。


「いつまで甘えてるんじゃ、お前ら! 敵襲やぞ! 仕事せえよ!」


 リ・ッキの一言で、魔物たちが我に返った。

 役割を思い出したかのように、オレたちへと襲いかかってくる。

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