隠者 レフトアローン
「うるせえ!」
チンピラの一人が、オレに襲いかかってくる。
パンチの一撃で、ゴロツキを昏倒させた。
「このガキ!」
「ああん?」
キックをアゴへヒットさせて、別方向の悪党を眠らせる。
数人を撃退すると、親玉らしき男が姿を現した。
ピエロだ。こいつが一番目立つ。
「なぁに、ワチシの食事を邪魔しようって奴らは?」
丸々と太ったピエロが、ヨダレを垂らしながらオレたちを見る。
「あらぁ、おいしそうじゃない。坊やたちも混ざりたいの?」
クチャクチャと口を鳴らしながら、ピエロは舌なめずりをする。
「相変わらず子どもの魂しか食べないのだな、ペギウス」
「そ、その声は、カーミラ様!」
カミュの顔を見るなり、ピエロの様子が豹変した。
「そんな、カーミラ様は死んだはず!」
「誰が流している噂だよ、それ」
「ご存じないの? 魔王の娘であるカーミラ様は、ノーライフキング『リ・ッキ』様の手で殺害されたと」
「へえ。じゃあ、目の前にいるボクは亡霊かな?」
威勢を張っていたピエロが、その場にへたり込む。
呼吸困難になり、瞳孔が開いていた。
「どうした。ボクは亡霊だよ。君の大好きな、子どもの亡霊だ。食べなよ、ホラホラ!」
顔を近づけていく度、ピエロが青ざめていく。
「ひひいいいいいいいいい!」
半狂乱になったピエロが、カミュの肩を掴み、頭にかぶりつこうとした。
しかし、ピエロは大きな口を開けたまま、絶命している。
剣が、敵を切り裂いたのだ。
「た、助けてください、カミュ様!」
商人が、祈るような体勢になって懇願する。
「いいよ。二度と現れないで欲しい」
脂汗を掻きながら、奴隷商人はカミュの横を通り過ぎた。
「ところで、奴隷商を営んでいるんだね?」
銃口が、奴隷商を捉える。
「はぁっ!」
立ち止まった奴隷商が、ゆっくりと首をカミュの方へ動かした。
「言ったよね? 人身売買は死罪に該当するって」
カミュの瞳が、赤く光る。
「そ、それは魔王様が生きていた時の話だろうが!」
「今はボクがその魔王なんだけど?」
カミュが拳銃を構えた。
奴隷商人の杖が、カミュの銃を弾き飛ばす。
「えへへへえ、残念だったな」
奴隷商人が、カミュの銃を奪い、構える。
「カミュ!」
「平気さ、トウタス。ジンギ、隠者 レフトアローン!」
敵が引き金を引くより早く、カミュは銃を撃っていた。
カミュの手には、剣が握られている。しかも、銃の形に変わっていた。
眉間を打ち抜かれ、奴隷商が灰になる。
「人間じゃ、ない?」
「彼は元人間だ。悪魔に魂を売った」
「あんたも、ジンギが使えたんだな?」
「キ、キミの言い方を真似しただけだよ」
オレが尋ねると、カミュは照れ笑いをした。
「異能ってワケじゃないんだな」
「うん。ただの魔法さ。サーベルを銃へ変形させて、魔の者を完全に葬り去る」
もう一つ、疑問がある。
「一瞬で、剣が手元に戻ったな?」
「ボクの剣はバラドの手によって、ボクにしか扱えない仕組みになっている。盗難に遭っても、ボクが呼べば、瞬時に手元へと戻るんだ」
ソフィーの手引きで、もうすぐここに多数の騎士団が来るという。
下手人や遺体の処理は彼らに任せて、引き上げるか。
「こんなことが。魔物ってのは、こうも残酷なのか?」
誰一人助けられなかった。みんな、孤児とはいえ、仲間もいただろうに。
「これがリ・ッキの求める世界なんだ。全ての命は、彼らを喜ばせるためのエサでしかない」
「くそったれが……ん、何の音だ?」
わずかだが、誰かの呼吸音が聞こえた。
これも、ゾンビの特性か。生者の声を聞き取る力だ。
音は、子どもたちの死体から発されていた。
「まだ一人息がある!」
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