初めてのカチコミ

 街を探索して、やはり奴隷商が近くにあるという情報を掴んだ。だが、正確な位置は巧妙に隠され、見つからない。


 夜まで待ち、情報屋と落ち合う。


 相手は、青白い肌を持つ細身の女性だ。

 尖った耳と黄金の瞳は、エルフ族の証なんだとか。

 ノンセクシャルな装備や服装で隠しているが、出るところは出ている。

「アタシはダークエルフのソフィーよ。カミュとは長い付き合いなの」


「新米のトウタスだ。よろしく」


「固いわね。まずは一杯」

 ソフィーは気さくに、オレにノンアルコールのブドウ水を奢ってくれた。


「これで、オレはアンタとも兄弟だな」


「ごめんなさい、アタシは誰とも家族になろうとは。一人の方が気楽だし、カミュとの関係もただのビジネスで」


 急に理屈的な会話が始まってしまった。

 彼女にとって、ファミリーのネタはタブーだったらしい。

 

 くそ、オレがKYなのは、ここでも相変わらずか。

 よく舎弟も怒らせていたな。

 

 オレたちの会話に、カミュが割り込んだ。

「トウタスはね、家族を失ったばかりなんだ。悪く思わないでくれ。家族と言っても、いつもどおりでいいから」


「そういうことなら、家族ってことで」

 もう一度、ソフィーはオレの杯にグラスを当てる。


「一人は寂しいけど、気楽よ。何も背負わなくていいし」


「オレは、もう失いたくねえよ」

 孤独になれられるほど、オレは人間ができていない。


「そう。なら大事にしなさいな。今から行くところは、そんな優しい気持ちさえ踏みにじるような奴らが相手なんだから」


        ◇ * ◇ * ◇ * ◇


 オレたちが案内されたのは、地下下水道だった。

 それにしては、えらく作り込まれている。


「まさに、悪のアジトとしてはうってつけだね。長い年月をかけて、細工したんだろう。バレないように、巧妙に道を隠している」


 暗闇でもハッキリと周りが見える。ゾンビの能力のせいらしい。

 オレたちに夜目が利いていなければ、ランタンが必要だったろう。

 しかも、この道は光を浴びせると消えてしまう仕組みになっていた。


 ただのダークエルフであるソフィーは歩きづらそうだ。

「いたわ。ここよ」


 どうやら、裏口への扉が見つかったようだ。

 しかし、鍵が掛かっている。 


「灯りがあれば、鍵を開けられるんだけど、光を当てると扉がタダの壁になってしまうわ」


 鍵までは持ち合わせていない。ピッキングしようにも、光予防の細工のせいで無理。詰みだ。


「なあ、オレにできないかな?」

 自分のスキル表を見て、頭にある提案が浮かぶ。


「オレ、ゾンビじゃん。身体を傷つけても、特になんともないんだよな? 指の骨を鍵状にできないか?」

 オレのスキル表に、『鍵開け』とあったのだ。


「かなりグロテスクな発想だけど、いかにもボクたちらしいじゃないか。やってみよう」

 荒唐無稽な提案を、カミュはあっさりと承諾してくれた。


「指を一本立てて、鍵状になれと念じるんだ。勝手に指の骨が、鍵の形状になるはずだよ」


 そんなに難しいスキルではなかった。

 骨が徐々に鍵の形状へと変わっていく。


 鍵穴にはめ込むと、ガチャリと音がした。

「鍵が開いた! 乗り込――」

 カミュより先に、オレはドアを蹴破る。 


「シェリダン組だ、神妙にしやがれい!」

「なにそのシェリダン組って」

「適当に付けた!」

 

オレたちの前では、大勢のチンピラと、一匹のピエロが、玄室に集まっていた。

 ピエロが商人の男に金貨の入った袋を渡している。

 

 無数の孤児らしき子どもたちがいた。

 冷たい床で、ゴミのように、山積みにされている。

 もう全員が助からないと、一目で分かった。


「テメエら、なんてコトしやがる! 地獄へ落ちやがれ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る