腐女シスター、爆誕

「オレが居候している先の坊ちゃまなんだ」


 セェレは、オレとカミュを交互に見比べた。

「はじめまして、セェレ・ギルモアです。トウタスとは子どもの頃から一緒で」


「聞いたよ。村を焼かれて逃げ延びた先がウチの屋敷でね。雑用係が欲しかったので雇ったんだ。腕っ節も強いので、冒険者の手続きもさせたんだ」


 カミュが、オレの肩に手を置く。


 おふうっ、と、急にセェレが鼻を押さえだした。


「どうした、セェレ」


 見ると、彼女の指の間から鮮血が。出所は鼻孔であった。


「うわうわうわっ、マジで平気か、セェレ?」


「大丈夫、興奮しただけで」


「興奮した?」


 何か、セェレをハイにさせる作用があっただろうか。


「笑わないで聞いてくれる?」

「お前のことだ。別に嫌ったりしねえよ」


 オレが言うと、セェレは「ありがとう」と、事情を説明してくれた。


「私、男の子同士がくっついている所を見ると、変な妄想しちゃうの」


 おお、それは、確か聞いたことがある。

 たいてい姐さん絡みだが。

 女性の中で、そういう趣向を好む層はすくなから存在するとか、なんとか。


 前もって予備知識と理解があってよかった。それがなければ、きっと絶交していただろう。


「それだったら、フェロドニア騎士団にいちゃ、大変なんじゃねえのか?」


「全然。ヤオイとハッテンは需要が違うから」

 セェレが真顔で返してきた。セェレは「せっかく美少年の園って聞いて加入したのに。詐欺だよ」とブツブツ文句を言っている。

 相当お疲れのご様子だな。


「いつからは分からないんだけど、どうもその兆候があるみたいで。ごめんなさい」

「悪気はないんだろ? 気にするなよ。妄想してるだけで、実害はないんだし」

「もちろん! むしろ見ているだけで幸せというか」


 セェレのこの先は心配だが、本人が楽しそうで何よりだ。


「それじゃあ、オレらは行くからよ」

「うん。気をつけてね。それと、クルースニクのカミュ様」


「カミュでいいよ。どうしたの、マドモアゼル」


 一瞬だけ、照れた笑いを見せたが、セェレは急に真剣な顔に。


「奴隷商人ですが、くれぐれもお気を付けて。子どもを食べるお化けがいるそうなので」


「心得た。情報ありがとう」

「いざとなったら、私も呼んでください。及ばずながら、武術の心得もありますので」


 手を腰に回し、セェレは得物を披露した。

 モーニングスターである。

 信仰系の職種は刃物を扱えない。

 そのため、どうしても殴打系の武器になる。

 それにしても、並の鉄球より大きい。

 スイカほどのサイズがある。


「心強いね。よろしく」

「では、私はパトロールへ戻りますね」


 ジャラジャラ、とモーニングスターをしまって、セェレは巡回へ。


「いい子だね。ボクがクルースニク、ヴァンパイアのハーフだと言ったのに、普通に接してくれた」

「オレがいたからだろうけどな。それでも、あいつは人を見る目はあるから、きっと気に入ったと思うぜ」

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