王都の謎

 夜、ヘルツォーゲンベルク城内の食堂にて、食事会が開かれた。


「いやあ、帰ってきたぞい。ワシの嫁ー」

 ハイモ卿が、抱き枕を抱えながら食卓に着く。


「抱き枕って、ミイラの事かよ」


 ハイモ卿が頬をすり寄せているのは、いわゆる聖遺物だ。

 包帯でグルグル巻きにされ、抽象画のようなデザインのイラストが表面に書かれている。かろうじて人の絵だと分かる程度だ。


「よい表情をしておるじゃろ? 砂漠大陸から発掘した猫神『バスティア』たんの力を受け継いだ、女王のミイラじゃよ」


 いい顔をしながら、ハイモ卿はコレクションを愛でる。


 オレの知っている抱き枕とは違う。

 これを抱いて寝るのか。なんて罰当たりな。

 まあ、コレクションが戻ったんだからいいか。 


 豪華な食事が用意されたが、個人的にはタマミの家庭料理が恋しい。

 オレはシチューと白飯でいいんだよシチューと白飯で。


「しかして、お嬢」

「申し訳ありません、今は」


 カミュが話を遮ると、ハイモ卿は「うむ」と、察したように続ける。「すまぬ。今は、カミュ坊じゃったのう。隣国とは未だ緊張状態なのは知っておるな」


「はい。王都がピンチの状態であるとは掴んでいます」

「だとしたら、向かわねばならぬ。決断の時じゃ」


 オレには分からない事情があるようだが。


「なあ、カミュ。オレにも分かるように話してくれ」


 水でノドを潤し、カミュはナプキンで口を拭く。

「リ・ッキの策略のせいで、王都が危機なんだ。ボクは王都を救う義務がある」

 人間の味方をする。カミュは公言した。


「ボクは行く。王都、カルンスタインへ」

「そうだよ、カルンスタインってなんだよ!? カルンスタインって言やあ」


 カミュの、カーミラの本名じゃねえか。


「王都カルンスタインは、母の一族が設立した王国なんだよ」

 つまり、カミュは王家の血統を引き継いでいることになる。


 魔物の住まう城、カルンスタインは、隣国とフェロドニアの境界線にあった。


 フェロドニアも、かつては栄華を極めた王国だったという。

 先王カルンスタインは、フェロドニアの王姫と出会う。それが、カミュの母親だ。


 カルンスタインが人ならざるものと知り、王家は彼を排除しようとした。

 

 そこへ、姫が盾になったという。

 王家とも人とも争うつもりはないのだと。

 

 姫の優しさに触れた先の王は、もう二度と人を襲わないようにと、魔物たちに約束をさせた。

 

 だが、リ・ッキが台頭したことにより、魔物は人類を襲おうと画策し始める。


「カルンスタイン王が、リ・ッキと対決したのは、人々を守るためだったのじゃ」

 話を、ハイモ卿が引き継ぐ。


 しかし、王は敗れ、先王派の魔物は、フェロドニア付近に離脱せざるをえなくなった。

 しかし、フェロドニアを戦火に包むわけには行かない。


 その危機を救ったのが、大魔導師テムジンだ。

 彼女によってリ・ッキは世界から追放された。

 

 リ・ッキの気配が一時的に消え去った跡地に、人々は都を移設する。その名をカルンスタインとした。


 現在、フェロドニアはカルンスタインの領地の一つとなっている。


「魔王の名を、土地の名前として冠したのは、敢えてその名を使い、平和の象徴とするためじゃ」

 カルンスタインの名を聞いても、市民が誰も恐怖することがないように。


「酷いかい、人間の行いは?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る