リ・ッキの目的

「いや、一理ある。魔王サイドからすれば、納得いかないことダラケだろうが」


 本来、魔物が納めるべき土地に、人が住み着いている。


「確かにね。けれど、いいんだ。父亡き後、偉大なるカルンスタイン城跡が、人の手に渡ったのは、きっといいことなんだよ」

 魔族王の娘が、王都の姿をそう語った。


「じゃが、カルンスタインは現在微妙な立ち位置にいる。隣国の存在じゃ」


 カルンスタイン国は、魔物の人間が共存する、平和な街だとか。

 一方で、隣国は、一つの神以外は認めず、異教徒狩りが盛んな国である。

 オレの村を襲ったのも異教徒狩りを装った犯行では、と聞かされていたが、コイツらのことだったのか。


「奴らの狙いは、人と魔物とが住まう街を異分子として、正当な理由の元に排除する点にある」


 そうして、自らが崇拝する神の存在を、世に知らしめようとしているという。


「何が正当な理由だ! 要はシマの拡大が目的じゃねえか。身勝手だ!」

 オレは、テーブルに拳を叩き付けた。


「しかして、妙な話よ。お主の村へは、カルンスタインどころか、フェロドニアさえ通り越す必要がある。いくら小さき村とはいえど、そんな面倒な手段を経て襲うじゃろうかのう?」


「そこは、ボクも引っかかっていました。何か裏がありそうだ」


 ハイモ卿とカミュが推理をし合う。

 二人の結論からして、リ・ッキが隣国のせいにして、村を襲ったのではないかと。


「ありえるな。それなら、簡単に隣国とカルンスタインを緊張状態にできる」

「戦争状態にまで持ち込めば、カルンスタインを容易く落とせるだろう。


 だが、カルンスタインは動かない。

 多分、カミュたちと同じ考えに到達したのではないか。

 

 そこで、ヤツは二の矢を放つつもりだ。


「もうすぐ、先の王の鎮魂式典が行われる。魔物ながら英雄である、先カルンスタインの霊を鎮める為じゃ。この時期に毎回行われる。今年は没後一〇〇周年じゃ。盛大になるじゃろう」


「その式典に、隣国の暗殺者が送り込まれるのでは、と」


 暗殺者だと?


「それを仕掛けているのが、リ・ッキだと?」


 無言で、カミュは頷く。


 おそらく、政治的な混乱を招き、一気に戦局を有利に進めようと。

 ふざけんな。絶対阻止してやる。


「だが、本当にいいのか?」

「ボクだって、半分は人間なんだ。他の魔族がどう思おうと、ボクはあの地を支持するよ。ただね」


 カミュが目を険しくさせる。


「許せないことが一つだけある。リ・ッキがまた、この地を争うとしていることだ。せっかく人が魔族を恐れなくなっているのに、リ・ッキは再び恐怖でこの地を支配しようとしている。そうなれば、またカルンスタインは絶望の代名詞となる。それは、絶対に阻止すべきだ」


「ああ。落とし前を付けさせようぜ、カミュ」

 オレは、胸元で拳をパンと叩く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る