ゾンビ大移動

 城で夜を明かした後、朝食の席に並んだ。


「どうじゃろう、お主ら、ワシの城で住まぬか?」

 あっけらかんと、ハイモ卿は切り出す。まるで、帰省した孫に「もう一晩泊まって行け」といった風に。


「よろしいのですか?」

 思わぬ提案に、カミュも遠慮がちに尋ねた。


「この位置なら、フェロドニアもカルンスタインもカバーできようぞ。何より、部屋が余って仕方ないのじゃ」


 子分ゾンビが増え、屋敷が手狭になってきたので、ちょうどいい。

 ゾンビのメイドもいるので、タマミの負担も軽くなるだろう。


「いいじゃねえか、カミュ。お言葉に甘えようぜ」

「そうだね。屋敷の主人には申し訳ないけど」

 

 オレたちは、拠点をヘルツォーゲンベルク城へと移動した。


 この際だから、ヘルツォーゲンベルク近隣のモンスターも、移動がてらに倒すことに。


 オレたちは早速、手近な巣に直撃した。

 モンスターたちは何事かという顔になる。すぐにオレたちを敵と認識し、モンスターたちは沈潜体勢を取った。


「おらあ、キャンデロロに従うモンスター共! まとめて片付けてやるぜ!」

 剛毅ビシャモンを発動するまでもなく、敵を一掃する。 


 その後も、手下になったゾンビを先導し、巣を潰して回った。

 屋敷に戻りつつ、着々とリ・ッキの戦力を削いでいく。


 屋敷の主人である死霊のため、フェロドニア出身のゾンビたちには残ってもらう。もし、フェロドニアで動きがあれば、奴らが対処する。


「じゃあね、幽霊さん」

 最後まで残って掃除をしていたタマミが、手を振って屋敷を後にした。


 帰りは別のルートから回る。

 道沿いにあるモンスターの拠点を潰すために。


 タマミを含めたゾンビ大移動を終えて、兵隊の数を確認する。

「えらい数じゃのう」


 オレの仲間たちは、いつの間にか一〇〇〇を超えていた。

 

 ゾンビ四五〇。

 スケルトンは三五〇だ。

 死霊だけでも二〇〇はいる。

 

 連れてきただけでこれだ。

 屋敷にはまだ沢山のゾンビや死霊が溢れている。


「そうじゃ、こやつらはワシが鍛錬してしんぜよう」

「いいのかよ?」


「どうせ退屈するじゃろうて。それに」

 めざとく、ハイモ卿はゾンビたちの様子を伺っていた。

「身体が鈍っているようじゃし。ここはひとつ、老体に鞭打って、鍛錬に励もうではないか」


 ありがたい。オレだけではトレーニングにならなかった。

「よっしゃ、お前ら。たっぷりしごいてもらえ」


「へい、トウタスアニキ、カミュのオヤブン」


 また、アニキと呼んでもらえる日が来るなんて。


「お前らの仕事は、そうだな。屋敷を元に戻すか」


「足下を固めるんでやすね?」「さすがっすアニキ」「よく考えてらっしゃる」


 ゾンビたちの賞賛のそこそこに、オレは壁の修繕に取りかかる。


「手伝おうか?」

「いや。カミュはオヤジとゾンビのトレーニングをしてやってくれ」


 カミュに労働させるなんてとんでもない。


「ボクはヴァンパイアだから、見た目より力はあるけど?」

「力だけじゃ、修復作業は難しい。ここはオレに任せてくれ」


「分かったよ」

 残念そうに、カミュは去って行く。


「おやおや、随分と熱心ですね」

 サティが様子を見に来た。コイツに会うのは久しぶりな気がする。


「久しぶりだからな」


 このような仕事は、異世界に来る前にもやっていた。

 組の屋敷の補修はオレの役割だったから。

 よく銃弾の刺さった壁などを直していたな。


「おにいちゃん、わたしは?」

「タマミ、お前はこいつらに飯を作ってやってくれ」

「分かった! 待っててね!」


 こうして、ものの数日で、ヘルツォーゲンベルクは元の輝きを取り戻した。

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