第四章 全員、屍人

ゾンビ、王都へ。

 かつて、無数のモンスターで栄えていた都、カルンスタインの城。


 フェロドニアも活気に溢れていた。ドワーフが刃物を売り、ダークエルフのシーフが街を駆け回るような街である。 


 この都市は、フェロドニアの一〇倍近く賑やかだ。


 世界各地から人が集まっている。

 米の入ったツボを頭に載せた人、装飾品を服代わりにしている者、お揃いのピンク羽織で合わせ、帯刀した女侍の集団などだ。

 どの人種も、分け隔てなく、街の住人と語らっていた。


「お祭りが近いからね」

 だが、今のカルンスタイン最大の特徴は、人と魔物が仲良く暮らしていることだ。


「店まで開いてやがる」

「それだけオープンなんだろう」


 昼食のため、魔族が経営するレストランへ。

 角の生えた魔族の少女が給仕をし、スライムがテーブルを拭く。料理を獣人が運び、半漁人が後片付けをした。


 今日は、タマミも連れてきている。


 仲間が増えすぎて、手狭になった屋敷を離れた。その後、ハイモ卿の城に拠点を移してある。


 今頃、ゾンビ共はハイモ卿によるトレーニングで、更に強くなっているはずだ。ますますエインフェリア道に磨きが掛かる。


 遠慮しなくてもいいと伝え、タマミにはなんでも食わせた。


 海に近いカルンスタインは、魚介が新鮮なまま食べられる。

 毎回食事が穀物中心だったせいもあり、箸が止まらない。


「うめえ。香辛料の質が街と違うな」


 この世界に来て、焼きホタテにありつけるとは。

 前の屋敷でも魚は出たが、川魚だったからな。それはそれで味わい深いが。


「うん」と、タマミも首を縦に振る。

「いたって普通だね。魔族だからって特別ってワケじゃない」

 客の方も、相手を邪険にしている風もない。


 店を出て、中央の噴水広場へ着く。

 広場では、数々の店が軒を連ねていた。

 屋台だけでなく、詩人や演芸などの催しものが行われ、場が盛り上がる。


「ここに舞台を作って、王が平和を謳う演説を行うんだ。もし狙われるとしたら、この場所だろう」


 そこで、オレは信じられないモノを見た。


「カミュじゃねえか!」


 カミュそっくりの像が、噴水のモニュメントとして腰を据えていたのである。

 長い髪も、小さな背丈も、すべてがよく似ていた。


「彼女こそ、ここの領主の先祖、エリザベート・レ・ファニュ・フェロドニア一世だ」


 この人が、カミュの母親か。


 エリザベート一世の像は、銀の剣と、楕円形の盾を手にしていた。

 カミュは優しい印象だが、この像からはある種の勇ましさが漂う。


「武装してやがる」

「彼女は、この一帯で最強のヴァンパイア、カルンスタインを退治する、討伐隊を率いる姫騎士だったんだ」


 今から数年前、カルンスタイン城を舞台に、人と魔物の覇権を争う激闘が始まった。


「相手の魂まで削り合う死闘だったそうだよ。どちらも、今のボクより数十倍は強かった、ってサティは言っていたね」


 だが、ミイラ取りがミイラに。

 姫騎士はヴァンパイアの餌食どころか、虜になっちまった。

 噛まれたわけでもないのに、二人は引かれ合う。

 戦いを通じて、闘志が愛情へと変わっていったらしい。


「河原で殴り合って友情が芽生えたヤンキーみたいなエピソードだな」

 

 どちらも、殺すには惜しいと考えた。

 また、どちらも種族にまで敵意はないのだと。


 こうして、魔物による人類蹂躙は免れた。


「あとはこの間話したとおりさ。とはいえ、隣国とは相変わらず微妙な関係にある」


 実際、刺客が送り込まれていてもおかしくない現状だ。

 キャンデロロ男爵は、まだ手を出して来ない。

 が、時間の問題だろう。



「うわ。大変だ!」


 近くで悲鳴が上がった。


 咄嗟に、オレはタマミを抱き寄せる。


 串焼き屋の屋台で、火災が発生した。

 油がはね、いつ周辺りに火の手が回ってもおかしくない。

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