デュラハン嫁、奪還作戦
追いかけると、メガネ魔導師はフワリと宙に浮く。
「テメエ、待ちやがれ」
「ノロマが! テメエなんかにゃ捕まらねえよ!!」
浮遊の術を使って、魔導師は空中へと逃亡した。
足は遅いがフヨフヨと動いて銃のタイミングが合わない。
銃を撃って逃げ道を塞ごうとする。
が、オレの腕ではカミュのようにうまく攻撃できない。
唯一の出入り口へ、浮遊ながら魔導師は向かっていった。
「そうはいくかって。剛毅ビシャモン!」
オレは、柱に体当たりした。
天井の支えを壊し、通路を瓦礫で塞いだ。
「しまった!」
だが、天井まで壊してしまった。
月が見えるほど、天井がズレている。
「へへ、逃げやすくなっただけじゃねえか! あばよ!」
悠々と、魔導師は逃げようとする。
「今だ、カミュ!」
オレの合図に、カミュが合わせた。
「ジンギ 隠者レフトアローン!」
サーベルを銃へと変形させ、カミュが魔導師を狙う。
銃弾は、魔導師を大きく逸れていった。
「バカが! ちゃんと狙わなきゃ当たらんぜ!」
「それでいいんだよ」
その通り、カミュの銃撃には、何の意味もない。
隠者レフトアローンは、相手の弱点を着く必中の技だ。
しかし、標的は魔導してはなく、なにもない虚空である。
本当の狙いは、魔導師の目をそらし、仕掛けを作るため。
「オッサン! 今のうちに!」
柱を支えた状態で、オレは、ハイモ卿へ合図を送る。
城を支える柱など、人間に持てる重さではない。
だが、毘沙門天のパワーを授かり、今は抱き枕のように軽い。
「おうよ!」
デュラハンが、オレの持っている柱を、バイクで駆け抜けた。
ハイモ卿は、壁すら余裕で走れる。
ならば、柱を渡るなどわけないよな。
そう、オレは踏んだのだ。
「おらあ!」
オレは、バイクを疾走させた状態の柱を、魔導師の方へ向ける。
「なんだと!?」
魔導師に、ハイモ卿が追いついた。
「嫁を帰してもらうぞ、若造」
月の夜に、血の雨が降る。
ハイモ卿が、抱き枕を抱えながら戻ってきた。
「よくあんな作戦を思いついたのう?」
「やっぱ、嫁は自分の手で助けたいだろ?」
オレが言うと、ハイモ卿は「ほほう」と感心する素振りを見せる。
「よい腕じゃの。よし、この領土、お主らに預けよう。ゾンビ共をここへ。ワシが面倒を見よう。そろそろアジトも手狭だった頃じゃろうて」
ありがたい。
「じゃあ、アンタもオレと義兄弟ってワケだな?」
「うむ。嫁奪還の礼じゃ。手を貸そう」
ハイモ・ヘルツォーゲンベルク卿が、オレたちと同盟を組んだ。
例の通り、杯をハイモ卿と酌み交わす。
「ほう。これがビシャモンの杯とな。力が漲ってくるようじゃ」
デュラハンの力とバイクはそのままに、邪悪な気配がサッパリと消え去った。
「ハイモ卿、ご助力感謝致します。本来なら、貴方にこそ魔王の称号は相応しい」
カミュが頭を下げると、ハイモ卿はカミュの手を取った。
「今更上も下もあるまい。よろしく頼むぞよ、若き魔王カーミラよ」
カミュも、ハイモ卿の手を握り返した。
フェロドニア騎士団には、「モンスター襲撃の噂は誤報だった」と伝えている。
現在は、友好的なモンスターしか残っていないと。
暴徒化したハイモ卿を、騎士団長に確認してもらい、事態は収束した。
騎士団長は渋い顔をしていたが。
「ところで、この間から、セェレの姿が見えねえな」
「セェレ参謀なら、特殊任務で王都カルンスタインへ向かったよ。今ごろ、王の護衛中だろう」
「そうか……って」
今、このオッサンはなんて言った?
「王都って、なんて名前だって?」
オレの質問が余程間抜けだったのか、騎士団長は呆れた顔になる。
「カルンスタインだ。お前、フェロドニアに住んでいて、そんなことも知らないのか?」
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