デュラハンの嫁

「カミュから譲り受けた命だ。たとえ不死でも、ハートは熱く燃えてやがるんでい!」

 言った側から、オレの膝がガクンと曲がった。

 絶対防御の能力と言えど、撥ねられた圧力だけは相殺しきれなかったらしい。


「無茶をする! いくら不死の身体を手に入れたとは言え、無事では済むまい!」


 バイクをふかし、デュラハンが息を吹き返す。まだ動けるのか。


「上等だ。根性見せてやるぜ!」

 再び、剛毅ビシャモンを発動させる。

 今度は、甲羅シールドを「被った」。


「ヌハハハハ! 起死回生の策があると思いきや、土下座とはのう! まあよい。己の未熟さを詫びて果てるがよい!」


 勝利を確信し、デュラハンがオレをひき殺そうとした。

 だが、できない。甲羅シールドに足を取られ、ウィリーする。

「あ」

 デュラハンのバイクが、天高く舞い上がった。壁をも走るバイクと言えど、空中にいては。


「カミュ、タイヤの隙間を狙え!」

 オレの言葉を瞬時に推理したのか、カミュの行動は早かった。サーベルをバイクの車輪、その隙間へと滑り込ませる。


 ガキン! という音と共に、バイクが一回転した。


 バイクから引き離され、デュラハンが胸から落下する。


 ハイモ卿の首も、床に転がっていった。


「おのれ、人類の叡智を」

「ハイモ卿! 今は、ボクたちが争っている場合ではないのです!」


「ぬう、かといってお主を見逃せば、嫁の命が!」


「嫁? 奥様は、ずっと前に亡くなられたではありませんか」


「いや、抱き枕なんじゃが」


 カミュは、ワケが分からなくて首をかしげた。

 だが、姐さんのレクチャーを受けたオレなら分かる。

『嫁』の意味が。


「その抱き枕って、イラストが書かれてあるだろ?」


「左様じゃ! 尊いのじゃ!」

 中学生のガキみたいに、そのビジュアルがいかに素晴らしいものか演説を始めた。 


「貴公の首を差し出せば、嫁を帰してくれると約束してくれた!」


「人質ですか? 卑劣な!」


「それゆえ、貴公に刃を向けざるを得ぬ。友人の忘れ形見とはいえ!」


 とは言うが、もうバイクはない。デュラハンはうなだれる。


「おいおい、じいさん、こいつがどうなっってもいいのか?」


 部屋の端から、眼鏡をかけたヒョロそうな男が現れた。

 魔導師っぽい風貌だが。

 手には、大きな袋を乱雑に掴んでいる。


「おお、それは抱き枕!」


「早くそのクルースニクをやっちまわねえと、火を付けちまうぜ!」

 指先から炎を展開させ、抱き枕に近づけていく。


「おおおお! おのれ!」


 デュラハンは、無理矢理バイクを再生させた。

 だが、弱々しい。復元で体力を使い果たしたようだ。


「おっさん。あいつはオレに任せろ! カミュ、戦っているフリをしていてくれ」

 サーベルを拾い、カミュはデュラハンと対峙する。

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