王都炎上

 炎上した王都を、亡霊バイクで進む。

 荒々しい熱が、オレの皮膚を容赦なく差した。


「どけどけぇ!」

 バイクで、数匹のグールを撥ね飛ばす。

 オレもドスを抜いて、グール共を切り刻んでいった。


 酷い光景である。数こそ少ないが、犠牲が出ているのは確かだ。


 目の前に、今にもグールに食われんとする親子連れが。


「調子にのってんじゃねえ!」

 進路を確保するように、民衆を助けつつ、グールを蹴散らす。


「前を責める前に後ろの街を潰す気か」


「街とタマミちゃんの命を天秤にかけさせるつもりだ!」

 上等だ。纏めて片付けてやる!


 その覚悟を決めた直後、鉄球が猛スピードで、グールどもを粉砕していった。

 殺人的な速度を誇る鉄球を操るのは、腐女シスター・セェレである。

「この街の平和は、フェロドニア領騎士団のセェレが守ります!」

 フェロドニア騎士団が、各地に散らばってグールを撃破していく。


「トウタス。話は後で聞きます。今は、街を守りましょう」


 教会の屋上に、見覚えのあるドレスの女がいた。

 小さなパラソルを、指揮棒のように振り回している。

「恩に着るぜ、セェレ!」

 街をセェレに任せて、オレは先を急いだ。

「いた、あの女だ!」

 カミュが、何かを発見し、指を差す。


「あいつは、この間の!」


 グールを指揮しているのは、パラソルを差した女だ。

 オレたちを見るなり、ニヤリと笑う。


「あやつこそ、ヘルヴァ姫じゃ。ワシも一度しかお目にかかったことはないが」


 ヤツが、このグールを操っているのか。 


「テメエ、人を虫ケラみてえに!」

「アタシは死を食えれば何でもいいのさ! 存在感がなくなっちゃうから!」

 愉快そうにパラソルを回す。

 死霊が豪雨となって、ヘルヴァのパラソルに降り注ぐ。

「使い魔ちゃん、出番よ!」


 傘の表面に書かれたドラゴンのイラストが、具現化した。

 三メートルの首長竜の頭上に、ヘルヴァが立ったまま載る。


「ドラゴンゾンビ! 死霊を食って、この世界で形をなしたか。なんという理不尽を」

 カミュの怒りが、サーベルに注ぎ込まれていく。


「ああ、命を削り取る度に、生を実感できるわぁ。そうは思わない?」


 発言からして、理解した。

 こいつは、生かしておけねえ。

 死を娯楽にしている。誰彼構わず。


「トウタス、倒すよ。手を貸して」

「おうよ。ハイモ卿、もっと近づいてくれ」


 ハイモ卿のバイクが、ドラゴンゾンビの頭上へ。


「これ以上好きにさせるかよ!」

 オレが銃でけん制し、カミュがヘルヴァへ突きを繰り出す。


 額に銃弾を撃ち込まれ、ドラゴンゾンビが暴れ出した。

 ヘルヴァが振り落とされる。


 二人は屋上で対峙した。ヘルヴァは傘を畳み、カミュと打ち合う。


「オレの相手は、テメエだ!」

 バイクにまたがりながら、ドラゴンゾンビを迎え撃つ。


 ドラゴンゾンビの方も、オレを敵と認識したようだ。

 オレがつけた頭部の傷をさする。オレに殺意の眼差しを向けた。

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