トウタス VS ドラゴンゾンビ

「ハイモ卿、運転は任せた」

「おうさ。血がたぎるわい!」


 バイクの駆動音が激しくなる。


 天井を伝い、ドラゴンゾンビを引きつけた。


「オラ、こっちだ!」


 ドラゴンの腕が、バイクをたたき落とそうと迫る。


 壁伝いの応用で、ドラゴンの腕を走りこなした。


 ハイモ卿の巧みな操縦により、ドラゴンは攻め手を失っているようだ。


「じゃが、策はあるのか? いくらミ・スリラーといえど、ドラゴンゾンビの皮膚は貫けぬ」

「任せろってオジキ。オレには保険がある」

 オレは、メシュラで拾った剣を背中の鞘から引き抜く。


 標的は、目だ。眼球は落ち、窪んでしまっている。


「オジキ、頼む!」

 剣を運転中のデュラハンに渡す。


「オジキ、もっと引きつけてくれ!」

「無茶じゃ。これ以上は避けられなくなるぞい」


 ドラゴンの爪が、ハイモ卿の車体をかすめた。

 片手運転の影響か。


 お返しに、卿はドラゴンの指を、さっきオレが渡した剣で切り捨てる。


 ドラゴンの手から離れた鋭い爪が、武器屋の窓を突き破った。


「避けなくていい。突っ込んでくれ」

「玉砕する気か? 若造と共に心中なんぞごめんじゃて」

「任せろ。くたばるのはオレ一人でいい」


 オレだって、タマミを助け出さずに死ぬわけにはいかない。


 ハイモ卿が方向を変え、ドラゴンと肉薄する。


「オジキは左を。オレは右を!」


 うなり声を上げ、ドラゴンが大きく口を開けた。

 食い殺そうとしている。


「今だ!」

 オレはシートから飛び上がった。スピードを維持したまま、ドラゴンの目にドスを突き刺す。


 卿も、同じタイミングで、剣を竜の目に突き立てた。

 

 悲鳴を上げたドラゴンが、長い首を大きく振り回す。


 避けられるはずもない。オレと卿は、打撃をモロに喰らう。

 全身が潰れるのでは、というほどの衝撃が走った。

 あまりの威力に、バランスがきかない。


「痛ってええ!」

 赤い瓦の天井に、身体をしたたかに打ち付けた。無痛のキャパシティを超えて、全身に痛みが走る。


 カルンスタインを一週して、カミュのいる戦場まで戻っていた。


 痛む身体を起こす。


 ドラゴンは、戦意を失っているようだ。暴れているだけである。


 屋上では、まだカミュとヘルヴァが斬り合っていた。

 

「どいつもこいつも、どうして生きてるの!? みんな死ねよ! わたくしみたいに!」


 結晶でできたヘルヴァ姫が、憎しみを吐き出す。


「どうせ、みんな死んだ風に生きているくせに! わたくしは、生きたくても生きられなかった! 憎い! 生きているもの全てが! その生を分けてちょうだい!」

 傘を天に突き出す。


 街の住民たちが、ノドをおさえて苦しみだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る