ヘルヴァ姫、乱心

「何があったんだ?」

「街の人達から、生気を吸い取っているんだ!」


 セェレの必殺のハンマーが、解き放たれる。

「やめなさい!」


 見事、鉄球はヘルヴァ姫の顔面にヒットした。


「ふん。人間の聖女風情に、わたくしが後れを取ると思いまして?」

 ヘルヴァは傷一つ負ってていない。


「いくら聖女と言えど、所詮は人間! 我が放つ死の呪縛からは逃れられないわ!」

 パラソルを広げ、セェレに向けた。


 魔力を吸われ、セェレが膝を突く。


 聖女ですら、あのアンデッドには対処できないのか。


「なんだよあいつ、不死身か?」

「ボクに心当たりがある。試してみよう!」


 カミュがサーベルの先をヘルヴァに向ける。


「ジンギ 隠者レフトアローン!」

 サーベルが銃と化し、ヘルヴァを撃つ。


 ヘルヴァが銃弾を傘で弾く。


「やはり、あれは『弱点殺しの繊維』だ」


「なんだ、そりゃ?」


 そんな便利アイテムがあるのか?


「自分の命と引き換えに、弱点をなくすアイテムだ。その代わり、本人は短命に終わる。放っておけば勝手に消滅するけど」


「ヤツはパラソルで人間たちの生気を吸って、延命していると」

「人を薪代わりにしているんだ」


 最低なヤロウだ。


「邪魔をなさるおつもり?」


「ヘルヴァ嬢! あなたの怒りは、人々に向けられるべきではない!」

 サーベルを構え、カミュがヘルヴァの胸を貫こうと突進していく。


「お説教を! 人間なんて、わたくしに従っていればいいのよ! メシュラの街のように!」

 パラソルを開き、ヘルヴァは突攻撃を弾き飛ばした。


 レンガを吹き飛ばしながら、カミュが転倒する。


「このドラゴンも、祖国ライニンガーやメシュラの人々から魂を抜き取って、それを動力として動かしている」

 誇らしげに、ヘルヴァ姫は語った。

「それだけじゃない。我々が独自にメシュラで作り上げた大量のグール軍団が、今頃隣国を攻め落としていることでしょう!」


 ほほう。


「そいつらなら、オレとカミュで全滅させたぜ」


「はあ?」


 耳を疑っているようなので、ヘルヴァ姫さまに聞こえるようにもう一度言う。

「そいつらならな、オレと、カミュが一匹残らず始末したって言ったんだ」


「なんですって? はあ? ありえないわ」

 ブツブツと、ヘルヴァは独り言を呟き始める。


「んだよ、使っかえねえなあ!」


 子どものように、ヘルヴァが地団駄を踏む。

「なんか、どうりで隣国の動きが悪いなって思ったら、活動してねえのかよ! 命令聞けっての! マジ頭悪いなぁ!」


 静観するは、姫のために尽力してきた魂でできたドラゴンゾンビだ。


「だそうだぜ、ドラゴンゾンビさんよ。それでも、このお姫様に従うのかい?」


 暴れるのをやめ、ドラゴンは巨体を前進させた。姫のいる場に向けて。

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