異界の光

「こうなったら、ここをメチャクチャにしてから、隣国もわたくし自ら攻め落として差し上げるわ! そうよ、ぜんぶ自分でやればよかったのよ! 人に任せたらダメね!」


 余裕を取り戻したのか、ヘルヴァ姫はドラゴンを怒鳴りつける。


「さあ、やっておしまいなさい、ドラゴンゾンビ! 気に入らないヤツから踏み潰してぷぎゃあああ!」



 ドラゴンゾンビは命令通り、気に入らないヤツを踏み潰した。



 ヘルヴァ姫を。



 何度も何度も。


「待ちなさい! わたくしじゃない!」

 前足で踏み潰され続けながら、ヘルヴァは弁明する。


「いや、あんたを殴るので合ってるぜ」


 オレの言葉に呼応するかのように、ドラゴンが吠えた。


「こんな奴に、我々ライニンガーの民は、命を捧げたのか!」

 意思なき者のはずであるドラゴンが、人語を発する。


「しゃ、しゃべった?」

 ヘルヴァにも、何が起きているのか分からないらしい。


「我々は、姫がどのような人物でも、尽くす所存でいた。それが何だ? 民をよき方向へ導くでもなく、用がなくなればお払い箱とは! なんたる屈辱!」

 ドラゴンがストンピングを再開する。


「な、何が起きたの? どうして操り人形なはずのドラゴンゾンビが、わたくしに反抗を?」


「保険が利いたな」


 オレはあらかじめ、メシュラの街で手に入れた剣に細工をしていたのだ。

 カミュの杯に、自分の血液を注いで、剣に振りかけたのである。


 おかげで、彼らは姫の呪縛から解放され、自由な意思を持つことができた。

 オレの血を浴びた霊たちを、ドラゴンゾンビに突き刺すことで、ドラゴンを内側からコントロールできないか、と踏んだのだ。

 ドラゴンゾンビが死霊をかき集めて作られたなら、できるはずだ、と。


 結果は大成功。

 ドラゴンを動かしていた死霊は、こちらに味方した。


「しかし、グールは凄い数だ。騎士団だけでは」

 カミュが下を見下ろす。


 騎士団の数を持ってしても、グールの勢いは止まらない。


 力を取り戻したセェレも、苦戦している。



「ご安心を。カミュ様」

 この声は、サティだ。



 直後、雨が降ってきた。矢の雨が。

 それもグールの集団だけに降り注ぐ。

 魔法によって軌道を変えているのだろう。


 教会の集団が、グールに浄化の魔法を放つ。


 オレたちで助けた桜花団を始め、王都と敵対している信仰団体も、打倒リ・ッキのために集まっていた。手に矢を持って。


 味方をしてくれている勢力は、それだけではない。


「見ろ、アレはなんだ?」「光っている。真っ暗なはずの空が、光り輝いているぞ!」「あれは、神々ではないか」


 戦うことも忘れ、民衆が空を見上げる。

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