お控えなすって、国王!
翌朝、宿を出ると兵隊に囲まれた。
槍先を向けられこそしなかったが、道を塞がれるのはいい気分ではない。
「なんだ? オレたちに何の用事だ?」
こんな時、イヤな態度が表に出てしまう。
「王様が、キミらに会いたがっているそうだ」
背筋が凍った。
「なあ、オレらがアンデッドだって知られたか?」
カミュに小声で話す。
「いや、何も心当たりがない」とカミュは首を振った。
オレたちはアンデッドだが、デイウォーカーだ。
日中でも普通に出歩ける。
悪いことはしていないし、そう思われる落ち度もない。
誤解はされても、処刑される理由はないはず。
一人の兵士が、前に出る。
セェレに話しかけていた兵隊だ。一際大きな男性騎士である。
「貴君らに会いたいという方がおられる」
「それは、一体どなたで?」
「国王陛下だ」
斧で頭をかち割られた気分だ。
なぜ、国王陛下が?
オレたちは、王宮へ連れて行かれた。
タマミはつれてきていない。
宿で、ソフィーについてもらっている。
王宮は、豪勢とは言い難い。
しかし、管理や防衛が行き届いているのは分かる。
豪華さの維持より、地道な国防意識を持っているのだろう。
偉いさんのホーム独特の、ヒヤリとピリつく空気が漂ってくる。
悪いことをしていないとはいえ、この緊張感は堪える。
生きていることさえ責められているような。
「トウタス。回りに流されるな。顔に出ているよ」
「マジか」
ほっぺたを揉んで、顔の筋肉をほぐす。
「おい、あの肖像が見てみろよ」
どうも、国王と家族が描かれているようだ。
正面に国王と王妃、エリザベートによく似た女性の横に、一番チビが、中指を立てて舌を出していた。
「あいつ、モヒカンだぜ」
「王族って案外フリーダムなのかも知れないね」
カミュと話し合っていると、私語をやめるよう、兵隊から注意を受ける。
「もうすぐ、国王の間である。無礼は慎むように」
もう九〇になろうとしている老人が、玉座に腰掛けていた。
「私が、この国の王、カルンスタイン一世である」
思っていた以上に、威喝感のない、優しい声色である。
一瞬だけ、カミュが眉間に皺を寄せた。
「名を聞いていなかった。教えてはくれまいか」
まさかとは思うが、国王は、こいつをカーミラ・カルンスタインと知っているのか? カマかけているつもりでは?
深く、カミュは腰を低くした。
騎士みたいに膝を突くのかなと思ったら、違う。
あれは、仁義を切るポーズだ。
「お控えなすって、国王様! あっしは、しがないクルースニク。カミュ・シェリダンと申します」
口調まで変わっていた。
カミュのべらんめえ調なんて初めて聞いたぜ。
「お、お控えなすって」
カミュにならって、オレも仁義を切る。
だが、こちらの方が気後れしてしまった。
「私は、血統で言えば、エリザべート妃の弟の息子に当たる。既に父はフェロドニアの領主だったので、私が、カルンスタインを納める形になったのだ」
「それがあっしと、どう関係があると仰るんで?」
苛立たしげに、カミュが口を開く。
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