ソフィーの本気

 ソフィーは商人の隣に座り、小鳥のように歌をさえずる。

 耳元でささやきかけられて、悪徳商人はすっかり舞い上がる。

 なんでもベラベラと語り出す。


 オレは、悟りの境地に達した。

 細身の巨乳は正義なんだな、と。


「あんた、踊り子の素質があったんだな? ソフィー」

「元々こっちの出なの、あたしは」


 その昔、ソフィーは踊り子として、酒場を癒やしていた。リュートを奏でれば、立ち止まらない客などいなかったという。


 さぞ、男たちの視線をさらったに違いない。


 恋人だった貴族とも、酒場で知り合ったという。

 その恋人がキャンデロロの敵となったことで、自分も転職してシーフになったそうな。


「それでな、キャンデロロの素性なんだが」

 キャンデロロの屋敷は、カルンスタインと隣国との境界線に位置する。


「今は、隣国との接点はないみたい」

 かつては、よく流通をしていた。

 けれども、よすぎる性格からか、敵が増えすぎたらしい。


「どちらかといえば、ライニンガーという国と接点があったらしいわ」


「北方にある魔法大国だね。つい最近滅びたって噂があったよ」


 聞けば、ライニンガーも、キャンデロロの屋敷に近いとか。


「昔は、それこそ優しい紳士だったそうよ。だけど、ライニンガーの王様と関わった直後、人が変わったように侵略的な性格になったの。今から数年前の話よ」


 ソフィーも怪しんで、周辺を調べ回っていたが、詳しくは分かっていないという。


「信じられない話だけど、何者かの魂が乗り移ったんじゃないかって。そんなことありえるの?」


 ありえる。オレは転生してこの世界に生まれた。


「それだと、何か触媒が必要じゃない? 確かに、キャンデロロ男爵は美術マニアって聞くけど。さっきの商人も、古美術商なのよ」


 とはいえ、出所不明の骨董品を扱っているため、あの商人はネエチャンのいる店ではなく、こんな店で飲んでいるわけだが。


 ソフィーの言葉に、オレはピンときた。指を鳴らす。


「決まりだな。リキのヤロウ、美術品に目がねえんだ。特にオカルトじみた怪しい芸術品とか、めちゃ集めてたな」


 それも、全然美術的な価値のないヤツを。

 頭に血の付いたマネキンや、誰が書いたか分からない絵画などである。


「何考えてんだか。秘宝館でも建てるのかっての」


「お兄ちゃん、ひほーかん、ってなに?」


 子どもは食いついてはいけませんっ。


「大人でも理解できない芸術品を飾る屋敷だ。子どもが入っても楽しくねえよ」


 そっかー、と、タマミはつまらなそうにミルクを飲む。


「これで謎は解けたね。別人が成り代わっているとしたら、全部説明が付く」


「後付け設定、ってワケか」


「ま、まあ、そうなんじゃないかな……」

 一瞬、カミュは首をかしげた。

 だが、オレの言いたいことを大体は掴めたらしい。


 カミュによると、リ・ッキは憑依によって出現した可能性があると。

 もしリ・ッキがキャンデロロであり、オレの知っているリキだと分かれば、敵はキャンデロロ男爵に絞れる。


 だが、それを確認するためには、男爵の近くにタマミを連れて行かなければならない。


 もし、相手に知られたら危険だ。

「商品を確かめるために、キャンデロロ男爵も現れるそうよ。うまくいけば、接触できるかも」


 一週間後、カルンスタイン南にある波止場で落ち合うらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る