消された街

 人に統治され、人と魔族の平和が維持されている。

 理想の世界と言えた。

 

 その王は人間だ。

 人間が、カルンスタインの名を名乗っている。

 本来、カミュが統治するはずだった国を、人間が。

 

 カミュにガマンできるのだろうか。


 侮辱と捉えたのだろう。兵隊の一人が前に出ようとした。


 国王が制する。

「此度の活躍、誠に感謝する。其方たちがおらねば、賊を捕らえられなんだろう。心から礼を言う」


「もったいなきお言葉でございます」

 あくまでも冷静に、カミュは応答したように見えた。


 だが、側にいるオレには、カミュがいかに無理をしているか分かる。


「実は、キミらを呼んだのにはワケがあるのだ」

 国王に語らせては話が進まないと思ったのだろう。

 騎士のリーダーが前に出て、オレたちに話を振ってきた。


「先月、北東の小さな街、メシュラが、一瞬で灰と化したのだ」


 そこは緑溢れる大地だという。

 自然と一体化した建築技術によって、「世界で最も美しい街」のひとつとも数えられているそうだ。

 今では、草一つ生えない廃墟と化しているのだとか。


「我々は、強力な力を持つアンデッドの仕業であると睨んでいる」


「それが、あっしらだって仰りたいんで?」


 なるほど。

 名の知れた冒険者が、観光でここに来るわけがないと。


「そうじゃない。どうも、先ほど捕らえた賊も、メシュラを襲った一味の一人らしいのだ。キミらとの関係は薄かろう。しかし」

 そこで、リーダーは言葉を止めた。


「隣国のペダン帝国から睨まれる事態となったのだ。メシュラの街はペダンと接点があった。排他的な思想もな」

 国王が後の言葉を引き継ぐ。


 それで、魔族と親密なカルンスタインが疑われたと。


「で、だ。我が国の存在を快く思わぬ奴の仕業ではと結論づけた。浮かび上がったのが、強力な魔力を持つ魔導師、あるいはアンデッドに心当たりがあるのではないか、と」


「リ・ッキ」


 カミュの言葉に、国王が頷いた。


「左様。我は、かつてこの地を恐怖に包んだアンデッドの王、魔導師リ・ッキではないかと睨んでいる。そちの意見を聞きたい」


「おそらくは、それが正しいかと」

 国王の問いかけに、カミュは肯定の返事をした。


「祭りの日も近い。民に不安を与えぬよう、我々も調査を進めている。何かあれば、報告を頼む」

 リーダー騎士の要求に、カミュは頷きで返す。


「仰せのままに」


 早々と話を切り上げ、カミュは立ち去ろうとした。


 その瞬間。


「しかして、銀の髪の其方よ。もしかすると、我が先祖、エリザベートの血を引いてはおらぬか?」


 来た。もっとも恐れていた質問が。


「それはどういう意味でございましょう?」

 言葉の圧が強い。


 重い空気に押しつぶされそうな気分になる。


 ああもう。せっかく穏便に済ませようと思っていたのに。

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