第五章 ジンギ・オブ・ザ・デッド

タマミとトウタス

 一旦ヘルツォーゲンベルク城に戻り、ソフィーを休ませた。

 戦闘の準備をする。


 ハイモ卿は、カミュの隣でテーブル席に腰掛けていた。


「やっぱり、キミは気づいていたんだね。タマミちゃんが、前世で生まれるはずだった妹だって」

「気づいていたよ」


 だって、あいつは「車」の存在を知っていた。

 だから、オレは必然的に、タマミと妹を結びつけた。


「しかし、なんでオレより先に死んだのに、オレの方が先に生まれたんだ?」

「転生にはね、タイムラグがあるんだ」


 別の個体に転生されるには、数年かかることもあるし、死んだ直後に転生させられることがある。

 オレと妹は、数十年のラグがあるらしい。

 

 ノーライフキングことキャンデロロ男爵は、五〇年ほど掛かったそうだ。


「最近の情報では、とある貴族から依頼された宝物を調査してから、人が変わったようになってしまったそうよ」

 半身を起こし、ソフィーがカミュに続いた。


 無茶をしたソフィーの身体に手を添えて、サティが寝かせる。


「あの女は何者なんだ? リ・ッキと同じくらいの殺気を感じた」

 オレは、その場にいた透明の女について話す。


「話を聞いていると、そやつが、ヘルヴァ・ライニンガー嬢じゃのう」

 ハイモ卿がクチを開く。


「話を聞いていると、どうも転生って感じじゃない。キャンデロロ男爵に『乗り移った』といった方がいいね」


「まさか、それにタマミが気づいちまった?」


「そうか! だから連れて行かれたんだ! 男爵が偽物だとバレれば、今後の商売がやりづらくなる!」

 カミュが、歯を食いしばる。


 だとしたら、ヤバいな。


「間違いなくあいつはオレの妹だ。今度こそ守る!」


「ボクも力を貸すよ。そのためなら」

 懐から、カミュは毘沙門天の聖杯を。

「奴に杯を渡したって構わない!」


「いいのか? 大事な宝だぜ」


「いいさ。たとえあいつが不死身になろうとも、ボクが何度だって殺してやるさ」

 カミュの瞳に、暗黒面の色が見え隠れする。


「落ち着けよ。お前のせいじゃねえよ」


「じゃあ何だってんだ! 運命だってのかい?」

 やはり、カミュはヤケになっていた。


「聞けよ! このままじゃあの野郎の思うツボだぜ。きっと、うまくいく方法があるはずだ」

「トウタス、キミは、妹がさらわれたってのに、どうしてそんな冷静に分析できるんだ?」

「大事な妹だからだ」


 あいつにはもう、何も奪われたくないんだ。

 妹のために、カミュを犠牲になんかさせやしない。

 

 オレにとっては、どっちを失っても負けだ。

 どっちも守り、勝つ。


「キミは、強いな」

 わずかに、カミュは微笑んだ。少し、落ち着いたようだ。


 乱暴に、部屋をノックする音が。


 扉をあけると、フェロドニア騎士団と、カルンスタインの騎士団がズラリと並んでいた。

 フェロドニア団長の傍らには、セェレの姿もある。


「誤解なきよう。セェレ殿が告げ口したのではない。我々は、独自に諸君らの動向を視察していたのだ」

 フェロドニアの騎士団長が、セェレの前に立つ。


 カルンスタイン騎士のリーダーが、巻物を広げた。


「右のモノ、アンデッド王家の血を引き継いでいながら、クルースニクとして戦い、民を惑わした容疑が掛かっている。間違いないか」

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