とらわれのタマミ

「ひょっとして、トウタスもアンデッドなのかな、って思っちゃった」


 カミュも、俯きがちになる。


「わたし、トウタスの味方だよ。どんなことがあっても。でも、教会が二人をどう思うかは、わたしにも分からない。わたしは、教会の意向には背けない。フェルダ神に背く行為だから」


「お前に悪気がないのは、分かってるさ」


「ありがとう。でも、もしトウタスがゾンビで、フェルダがゾンビを受け入れないなら、トウタスとの関係も断たなければならない。最悪、浄化しろとの命令だって下ってしまう。ごめんなさい、トウタス」


 隠し通せないことは、分かっていた。

 ここが、潮時なのかも知れない。


「本当のことを話して。わたしは、あなたを失いたくない」


「分かった。オレは……」

 オレは話そうとする。


「彼は、我々の同胞だ」

 別方向からの声が、オレの発現を遮った。


「この二人は、我々を助けてくれた恩人だ。おまけに宝も取り戻してくれた。それでいいじゃないか」

「セェレ、この際、彼が何者かなんてどうでもいい。我々は協力するべきだ」

「そうそう。すべては男爵との決着が付いてからで」

 桜花団の全員が、オレをかばってくれている。


「そっか、そうだよね」

 目に迷いがあったセェレにも、ようやく笑顔が戻った。


「でも、トウタス。約束して。嘘は、つかないで」


「セェレ、分かったよ。お前らも、ありがとうな」


 桜花団が、「いいって」と、帰してくる。



「トウタス、大変だ!」

 カミュが空を見上げた。


 倉庫の屋根の上に、二人の人影が。


 半透明のドレスを着た女性が、宙に浮いていた。

 身体すら透けている。内臓は見えない。全身がガラスでできているようだ。


 もう一人の方は、全身鎧の騎士である。


「オーッホッホッホッ! 哀れなこと。弱き者同士が慰め合っておるわ」

 ドレスの女性が、パラソルをクルクルと回す。

「あの鬼めに手柄をくれてやるのは惜しいと思って戻ったら、ちょうどいい土産ができたわ」


 透明ドレスが指示を出すと、騎士がこちらまで飛び降りてくる。


 騎士の腕の中には、タマミとソフィーがいた。


「逃げてお兄ちゃん!」

「タマミ!」


 駆け寄ろうとしたが、騎士には隙がない。

 カミュの行動にまで、目を光らせている。


「あれは、ジャガンナートだ。神の戦車とも言われている。上位魔族に装備させて、操っているようだ」


 カミュですら動けないとなると、油断ならない相手のようだ。


 セェレも動こうとしたが、人質を取られている以上、ヘタな行動に出られない。


「でも、二人もだと、ちょっと荷物ね」

 透明ドレスは、ソフィーとタマミを交互に指さす。


「年増はいらないわ。盗賊みたいだし、変に嗅ぎ回られる危険があるし」


 まるでゴミを捨てるかのように、ソフィーを放り投げてきた。


「このおチビちゃんだけいただくわ。さぞ、おいしいディナーになるでしょ」

「テメエ!」

「リ・ッキから伝言よ。もしこの娘を返して欲しければ、ビシャモン天の杯と交換すること」


 カミュが、懐に手を当てる。


「そんなこと、できるわけねえだろ!」

「こちらもすぐに返事をくれとは言わないわ。でも、悩んでいる間にこの娘が無事という保証はないわ」


 タマミから、不安そうな表情が浮かんだ。


「まあ、よく考えることね。それじゃあ、お邪魔したわ」

 奴らの周りに、霧が立ちこめる。


「待ちやがれ!」


「来ちゃダメ!」

 助けてとも言わず、タマミは尚もオレを気遣った。


 霧の中に、二人のアンデッドが消えていく。


「ごめんなさい。タマミちゃんを守れなかった」

「お前のせいじゃねえよ、ソフィー」


 全部オレのせいだ。オレがタマミを連れ出さなければ。


「オレはまた、守れなかった」

「自分を責めすぎるな。何も上手くいかなくなる」

「そういうことじゃねえんだ」


 今度こそ、取り返す。


「オレはもう失わねえ。樺島かばしま 尊毘とうたすの妹を」

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