イタリアにいる姐さんへ……

 イタリアに居を移した姐さん、元気にしていらっしゃるでしょうか?

 オレはボチボチ、達者で過ごしています。

 死んじまったけど。

 ゾンビに生まれ変わっただけで。


 異世界っていうんですか?

 そういう場所に来ちまいました。

 そこで第二の人生を歩んでいる最中です。


 ゾンビですがね。


 それにしても、なんでしょうな。

「バ美肉異世界転生ゾンビヤクザ」なんて、設定盛りだろ、って我ながら思うんですがね。 



 あれから、縁談はありましたか?



 すんません、オレ、せっかくの姐さんの好意、断っちまって。


 いいえ、何も姐さんが気に入らねえってわけじゃないんです。

 オレはもうちょっと細身でウンと年下が好き、ってだけで。


 姐さんの住む業界で言うところの「ロリ」とか、そういうんじゃねえ。

 きっとねえと思います。

 これは断言できますし。


 そう、目の前にいるカミュが、あまりにもオレにドストライク過ぎるだけでして。

 男じゃなかったら結婚申し込んでるところですけど。


 別に姐さんの部屋がゴミ屋敷で、片付けに駆り出されるのがずっとイヤだったとかそういうのでも――


「さっきから、何をブツブツ言っているんだい?」

 オレの前で、カミュが問いかけてきた。


 しまった、つい本音がダダ漏れに。


 気がつくと、もうすぐ森を抜けるところだった。


「キミのおかげで、魔物に遭遇しなくて済んだよ」

「とんでもねえ。単に森に詳しいだけさ」


 トウタス・バウマー時代の記憶が役に立っている。

 比較的夜でも明るく、安全な道を選んだ。

 おかげで、木の根に足を取られることも、モンスターに見つかることもない。


「お、着いたよ」

 森の中心に、洋館が姿を現す。


「いつもは、幻覚で普通の屋敷にカモフラージュしているんだ」

「こんな屋敷が、村の近くに」

「最近、越してきたんだ」


 こういうセーフハウスを、カミュは世界各地に何件か持っているらしい。


「ボクを追ってきた連中に嗅ぎつけられそうだったけど、無事なようだね」


 鉄の格子に、真っ赤なバラが絡まっている。

 カミュは、確認するかのように、バラを一輪改めた。これが警報装置なのだという。


「じゃあ、さっきのグールは」

「ボクを探していたんだろうね。そのせいでキミの村は」

 カミュは伏し目がちになる。


「いいんだ。あんたにも事情があるんだろ?」

「ありがとう。じゃあ、案内するね」


 カミュが門の前に立つと、ひとりでに格子状の門扉が開く。


「入って」と言うので、オレは頭を下げて中へ。


「お帰りなさいませ、カミュ様」

 エントランスでは、一人の紳士がカミュに頭を下げている。頭を上げると、骨だった。片目にモノクルがはまっている。


「ただいま、サティ」

「が、ガイコツ。スケルトンか?」


 オレが後ずさると、サティという名のガイコツはモノクルを直した。目なんてないのに。


「失礼な輩ですね。仮にも魔王の側近にその人ありと呼ばれていた死神・『一三階段サーティーン』を、ただのスケルトン呼ばわりとは」


「それはすまねえ。慣れていないモノでね」

「カミュ様を送ってくださったようですので、そのお礼はさせていただきます。ですが、いくら魔物と言えど、ここは魔の領域。お引き取りを」

 フンと、ガイコツは鼻を鳴らす。


「違うんだ。ボクが招いた客だ。彼の名はトウタス。ボクの友人になってくれたゾンビだよ」

「なんと。それは失礼を。さあ、中へ」

 カミュがオレを紹介すると、サティはあっさりと態度を変えた。


「信じるのか、オレを?」


「あなたをというより、カミュ様の観察眼を、ワタクシは信じております。カミュ様は先ほど、あなたのことを配下ではなく友人と紹介なさいました」


 そういえば、そうだな。


「カミュ様の勘に狂いはございません。カミュ様があなたを認めたのでしたら、きっと本物なのでしょう」


 そういうが、サティ自身はあまり納得していないようだ。


 親分であるカミュは認めているが、初対面のオレにまで気を許すつもりはないらしい。


 これは、仕事で信用を勝ち取るしかないだろう。

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