あんでっどずラブ

「クソが、なんでワシが負けるんじゃ!」

 負けたくせに、リ・ッキが悪態をつく。


「日頃の行いが悪いせいだぜ」

 折れたドスを、リ・ッキに突き出す。


 ニヤリと笑ったリ・ッキが、半身だけ起こした。

「何がおかしい!?」


「確かに、このままやったら、負けるかもしれへん。せやけどな、ガキの命はワシが預かっとるんは変わらんのじゃ」


 タマミの元に、モンスターが群がる。

 タマミに危害を加えようとしない。だが、素直に返してくれそうもなかった。


「ワシは、このガキに手を出されへん。せやけど、邪神の生け贄にはできるんや。邪神様の供物として、こいつは利用させてもらうで」

 目を押さえながら、リ・ッキがあぐらを掻く。

「おとなしく杯を渡さんかい」

 座ったままの姿勢で、リ・ッキが手を差し伸べてきた。


「テメエ、卑怯だぜ!」


 斬りかかろうとするところを、カミュに止められる。


「待ってろ」

 カミュは懐から、ビシャモン天の杯を出した。

 サーベルで自ら手の平を切り、杯に血を注ぐ。


「よう分かっとるやないか。そうや。ワレの血も必要なんじゃ」


「やはり、お前の目的は不老不死か。トウタスと同じく」


 なんだと?


「そんなにすごい力をもらっていたのか? オレはてっきり、ビシャモン天の力が自分に備わったとばかり」


「キミの能力は、絶対防御どころじゃない。それはビシャモン天が授けてくれた力であって、キミ本来の姿は『夜叉ヤクシャ』、不死身の肉体を持つ鬼神なんだよ。キミはどんな目に遭っても死なない。ゾンビなどの低級アンデッドとは、比較にならないんだ」


 そうだったのか。


 オレは、カミュに何一つ、言葉を投げられない。


「最初はゾンビから始まり、だんだんと身体を慣らしていき、キミは本当の力を手に入れたんだ。キミを不死身の戦闘マシーンとするためにね。ボクは、キミに殺されたって仕方のないヤツなんだよ」


 苦笑を浮かべ、カミュはリ・ッキに杯を差し出した。


 不死身の肉体が、リ・ッキの、竹山たけやま 力弥りきやの手に渡ろうとしている。


「タマミちゃんの解放が先だ。それで渡す」


「ええやろ」とリッキは言い、「お前ら!」と、タマミに群がっていたモンスター共に声をかける。


 モンスターが、タマミから離れた。


 解放されたタマミがオレに駆け寄る。


 オレはタマミを抱きしめた。

「よくがんばったな、タマミ」

「うん」


「タマミ、あのお姉さんの後ろに隠れてろ」

 セェレに、タマミを任せる。


 リ・ッキが聖杯を受け取った。 

「ガキぐらいくれたるわ。どうせ死ぬんやしな」

 口の端をつり上げ、杯に口を付ける。



 瞬間、オレはカミュと口づけを交わす。



「ちょっと、何を?」

 急なことだったせいか、カミュはとぼけた感じの声になる。


「なんや? こいつらいきなり」

 唐突に始まったあんでっどずラブを見て、リ・ッキは血を飲むのをやめた。


「だってよ、オレのためなんだろ? オレを生き返らせてくれたのは」


 もし、オレをリ・ッキを殺すマシーンに仕立て上げるだけだったら、自分から敵地になんて乗り込まない。

 オレに任せておしまいだ。


 カミュは優しい。

 人任せにせず、自分からリ・ッキの元へ赴いている。


 そんなバカなヤツだから、オレはカミュについて行こうと決めた。


「オレはあんたの義理堅さに惚れたんだ。だから、あんたが死ねっつったら死ぬし、生きろというなら這いつくばっても生き抜いてみせる。一生ついて行くぜ、親分」


「まったく、キミってヤツは」

 今度は、カミュの方から口を付けてくる。


 これは、腐女シスターにとって極上のエサになったらしい。



「うぼあー」

 セェレの鼻孔が、大噴火を起こす。



 聖女の血液は、リ・ッキの持つ聖杯すら汚した。



「うっわ、きったな!」

 手で杯にフタをして、リ・ッキは中身を守る。

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