リ・ッキの狂気

「人間というのは、アホな生き物やで。ちょっと好奇心をあおったら、手に取りおる。ワシもそうやった」


 元々書物として生まれたリ・ッキは、貧弱な能力しかない魔法使い見習いを焚き付けて、この世界に現実化した。


「手に余る品物でも、自分でコントロールできると信じとる。使いこなせるわけあらへんのに。せやから、へルヴァみたいな小娘をたぶらかすんは楽やったけどな」

 何ひとつ悪びれることなく、リ・ッキは言い放つ。


「キャンデロロも、そうやって」

「せや。あいつは傑作や。間抜けの極みやった。鎧の宝石にワシが封じられてるって分かっとったのに、取ろうとした冒険者に変わって取り憑かれおった。おかげで長年、鎧の中に自分が閉じ込められて、鎧の動力にされた。魂を削られ続けとったわ」

 ゲラゲラと、リ・ッキが笑う。


 こいつは、いわゆる「付喪神つくもがみ」だ。人格こそあるが、所詮はモノに魂が宿った存在である。だから、人の気持ちなんて分からないんだ。

 この世界でも、日本と同じことをしてやがるのか。大量に人を殺して。


「テメエ、この世界にやってきて、何をしようとしてやがる?」

「邪神の復活。すべてはワシに魂をくださった邪神様の為よ!」


 一連の事件は、すべてその為だと言うワケか?


「邪神さえ復活すれば、もうこんな不完全な肉体など不要! 邪神と、宇宙と一つになって、ワシは世界という括りから解き放たれるんや!」


「そうやって何人も殺してきやがったのか! リ・ッキ、人の命をなんだと思ってやがる!?」


「人間なんかなぁ、偉大なる邪神に捧げる供物じゃ! 邪神あってこその世界なんじゃ! すべては邪神のお導きのままに!」

 リ・ッキが、魔剣を振るう。


「あっ!」


 ドスが手から弾かれた。

 銃に手をかけようにも、魔剣の方が早くオレのノドに届くだろう。

 かろうじて魔剣の攻撃を避け続ける。だが、段々と距離を詰められていった。


 衣装の腹部が切られる。わずかに血が滲んだ。


「これまでや、樺島かばしま 尊毘とうたす。ワシの邪魔するんやったら、楽には死なさへんで」

 リ・ッキの攻撃が苛烈さを増した。


「ジンギ……」


「手を出すな、カミュ!」

 ジンギを仕掛けようとしたカミュを、言葉で制す。

「これはリキとオレとの勝負! 手出し無用!」


「ええんか? いくらアンデッドでも、この剣で斬られたら死ぬで」

 リ・ッキが、刀を振り下ろしてきた。


 オレは跳躍してリ・ッキに背を向ける。後ろを向きながら跳躍し、オレは、身体をねじった。


「逃げるんか? ムダや! 逃げてる間に斬り殺し――」


 オレの放った銃弾が、魔剣を持つリ・ッキの手を撃ち抜いた。

 身体をひねった状態で、銃の引き金を引いたのだ。


 魔剣を手放し、リ・ッキは激痛に顔を歪める。


 そのスキに、ドスを取り戻した。再び英霊を呼び起こそうと、念じる。


 乱暴に、リ・ッキが反撃の剣を振るう。


 オレは防御を余儀なくされた。斜めに受け止める。


 英霊の呼び出しを中断されたせいだろう。

 ミ・スリラー製のドスがへし折れてしまった。


 勝利を確信するリ・ッキ。しかし、

「ぬがああ、くそがあああっ!」

 飛んでいったドスの刀身が、リ・ッキの片目に突き刺さる。

 傷は浅い。だが、これは布石だ。

 本命は、死角を作ったことにある。


 視界の半分を失ったリ・ッキが、無闇にパンチやキックを放つ。


 そのことごとくをかいくぐり、オレは着実に打撃を浴びせていった。

 剛鬼ビシャモンで、拳を固めるのも忘れない。


 リ・ッキをサンドバッグにし、とどめのアッパーを食らわせた。


 キャンデロロ男爵を借りたリ・ッキの巨体が、宙を舞う。

 ダンスホールに、地鳴りが轟いた。

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