邪神、現る

「なんやこいつ、ガキ二人のラブシーン程度で鼻血吹き出しおってからに!」

 悪態をつきつつ、今度こそリ・ッキは聖杯に口を付けた。一気に血をあおる。


「これさえ飲めば、ワシは無敵に。アンデッド特攻すら受けつけへん不死身の……ん!?」



 聖杯が、リ・ッキの手からこぼれ落ちた。



 すかさず、オレは聖杯を奪い取る。


 リ・ッキに抵抗の様子はない。

 棒立ちになり、ノドに手を当てている。



「ぼえええええええ! なんやこれえええ!」



 リ・ッキは床をのたうち回り、全身を掻きむしった。


「ワシは、無敵の魔物になったんとちゃうんか! なんでこんなに身体が痒いんや!」


「へへ、うまくいったぜ」

 苦しむリ・ッキを見下ろす。


「オドレ、なにかしおったな!?」

 はいつくばりながら、恨めしそうな視線でリ・ッキがオレを睨む。


「それはな、聖杯に聖女の血が混じったからだ」


 聖女セェレの能力は、「浄化作用」だ。

 あらゆる不死の効果を打ち消す。


 一方、ビシャモン天の聖杯が持つ効果は、「復活」だ。本人が望まなくても、勝手に身体が再生する。


 この二つの能力が合わさり、不老不死のリ・ッキは、永遠に浄化と復活を繰り返す身体になったのだ。


 アンデッドの効果を打ち消し続け、ダメージを負わせては、再生させる。


「つまり、ワシはずっと浄化され続けるワケか! 死ぬこともできへんと!」


「そうだ。不死を受け入れている者にとって、死はただの救い。だからオレはお前を救わない。浄化・成仏こそ地獄。その地獄を永遠に味わってもらう」


 死と再生を繰り返すことによって。


「方法はないんか! この痛みを取り除く方法は!」


「ないよ。キミは死なせない。一生苦しむんだね」


「せや! ワシはノーライフキング! 元々身体なんて会ってないようなもんや! 身体を放棄して、また宝玉に戻ったら」


 その為にジャガンナートだったのか。

 あれだけ強かった鎧が、まさか、保険だったとは。

 そりゃあ、あんな強力な予防線を張るわけだ。


「それも無理だよ。あれは処分した。キャンデロロ男爵も、もうこの世にはいない」

 冷徹に、カミュが言い放つ。


「せやけどな、ワシのバックには邪神様がついとる。邪神様! この苦痛を取り除いてくれや! 人を殺せ言うんやったらもっと殺したろうやないか! さあ、共に世界を崩壊させましょうや! なあ!」

 両手を広げて天を仰ぎ、リ・ッキが邪神の降臨を懇願する。

 狂った笑みを浮かべながら。





「えー、世界崩壊とかひくわー、って言ってます」



 謎の声が、いずこから発せられる。



 リ・ッキの口から、笑みが消えた。



 発言者はタマミだった。

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