邪神の本音

「お前、何を言うとんのじゃ」


「え? だって、邪神とかいう人が言ってるよ?」


「嘘つけや! 邪神様がンなこと言うかい!」

 ブンブンと、リ・ッキは首を振る。


「でも、『誰がきっしょいファンなんかに従うかー』だって。地球って星のヤクザ数名の血なんかもらったって、おいしくないもーん、って言ってるし」


 タマミは更に邪神と交信し、リ・ッキしか知らない情報を語り始めた。


「ホンマや。ホンマに邪神様と、コンタクトしとるぞ、このガキ」

 リ・ッキが青ざめた顔で震え出す。


「どういうことだ?」


 タマミは死者だけではなく、今や神ともコンタクトを取れる能力を持ったらしい。


「リ・ッキの配下と語らったおかげで、魂が成長したからだろう」

 しゃがみ込んで、カミュがタマミと同じ目線になる。

「タマミちゃん。彼が崇拝してる神様になりきって、彼の言葉を直接伝えてくれないか?」


「だそうですけど、いいですか?」

 何があったのか、タマミが虚空を見上げた。

 誰かと語らっているようだが。

「いいそうですよ」と、タマミが指でOKサインを作った。


「お前、邪神とコンタクトしたのか?」


 オレが聞くと、タマミは首を縦に振る。



 どこまでオレを驚かせてくれるんだ、我が妹よ。



「じゃあ、お願いするよ」

 カミュがタマミに依頼する。


「はい」と、タマミは一つ、深呼吸をした。


 それだけで、タマミの持つ気配が変わる。


 カタカタと、リ・ッキが集めてきた魔法具が震え出した。タマミの元へ殺到し、周囲を回り出す。まるで、ダンスをするかのように。


「おお、邪神様が、降臨しはる!」

 リ・ッキが一人で盛り上がった。


「トウタス、タマミちゃんが!」

 心配するカミュを、オレは宥める。

「大丈夫だカミュ、だってあいつは、オレの妹だからな」


 正座状態だったタマミが、いきなり膝を崩した。

 指を鳴らすと、マジックアイテムたちはチリと化す。


「ワシのコレクションが」

 変わり果てたアイテムの残骸を、リ・ッキがかき集める。往生際が悪い。



「だって、狂信者イキッてるファンって一番ウザいじゃないですかー。ウチらはただ、ぼっちでいたいだけなんでー」



 正座状態だったタマミが、いきなり膝を崩した。

 あぐらを掻き、面倒くさそうに語る。



「でもね、狂信者イキったファンって何かにつけて『世界征服しろ』だの『世界を焼き尽くせ』だのうるさくてー。教典トリセツにも書いてあるんですよ。『関わるとロクなことにならないよー』って。『正気を失うよー』って。なのに、すっごいしつこくて。信じてくれないんですよ。ストーカーなの?」 




 邪神になりきって、タマミは早口でまくし立てた。



 ノーライフキングは、呆然としている。



「わざと禍々しく作って、手に取られないようにしてるのに、オカルトマニアって逆に手に取っちゃうんで。もう、いい加減にして欲しいって言うか。相手にしたくないんですよー」



 タマミは容赦がない。

 まるで、邪神が乗り移ったかのようだ。

 この邪神、相当リ・ッキが嫌いなんだな。


「ほああああああ!」

 苦しみもがきながら、ノーライフキングは永久に暴言を吐かれ続ける。


「さて、虚無へ落ちようか。誰も居ない世界で、永遠に生き続けるがいい」


「殺してくれ! こんなんじゃ生きていかれへん!」

 往生際悪く、リ・ッキがカミュに懇願した。


 だが、カミュは冷たい視線をリ・ッキに送るのみ。

「無理だね。ノーライフキングであるお前にとって、死は救いになる。ボクはキミを救わない」

 カミュが、手の平から真っ暗な空間を作り出す。


 暗黒は、みるみる大きくなり、人が一人分は入れるくらいにまで膨らんでいった。


「これは、今この世界で顕現している神々の力を結集して作り上げた、虚無の空間だ。お前をここに閉じ込める。キミは宇宙で一生、他の神から攻撃されるんだ」


「じゃかあしいわい! こうなったら、オドレも道連れにしたる!」

 リ・ッキが、カミュに向かって手をかざす。


 そのポーズを取っただけで、カミュの身体から一瞬で生気が失われた。

 目が開いているのだが、焦点が合っていない。

 明らかに、死んでいるように見えた。


「どうした、カミュ、カミュ!」

 揺さぶっても、カミュは目を覚まそうとしない。


 オレは、この状態を見たことがある。

 メシュラで。

 咲きながら死んていた花に似ているんだ。


「お兄ちゃん、カミュさんの魂が黒い空間に連れて行かれちゃう! まだ端っこの方で食い下がっているけど、弱ってる!」


 タマミの言葉を聞いて、事は急を要すると悟った。


「助ける方法は?」


「お兄ちゃんも霊体になって、助けに行く。方法は、今のお兄ちゃんなら分かるはずだよ」


 ビシャモン天の力を使えってか。


「セェレ、オレはカミュを助けに行く。いざとなったらタマミを頼む」


 敵はタマミに懐いている。攻撃してくることはないだろう。


 だが、オレは無事に帰ってこられないかも知れない。


「そんな! 絶対に帰ってこないと承知しないから!」

「分かったよ。必ず、カミュを連れて帰る」


 オレは、空間に向かって叫んだ。



「ジンギ、剛鬼ビシャモン!」



 オレの魂が、暗黒に吸い込まれていく。


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