ひねくれトウタスの一生
食堂の他に、書斎まで見せてもらった。
「へえ、結構大量の本があるんだなぁ」
宗教学や、禁書などが揃っている。
「父が集めたんだ。他の神格とも親交が深いって話をしたよね?」
大昔は、英雄クラスの神格・魔王クラスの災厄が、人間族に受肉して、戦っていたという。
彼らは争っては仲直りを繰り返していたらしい。
実際のケンカだけでなく、思想による論争なども苛烈を極めたとか。
「ボクたちヴァンパイアも邪険にしない神も多くてね。対等に話を聞いてくれることもあった」
彼女の父親はヴァンパイアだ。高位のモンスターなら、神様の知り合いくらいいるのかも知れない。
「そいつらから、譲ってもらったのか?」
「ううん。徹夜でサイン会に並んで」
ただのスピリチュアルマニア!?
「見ているこっちが恥ずかしかったよ」
そんな思い出を語りながら、食事の席に着く。
実際、サティの料理は庶民的で、答えられないほど上品な味だった。
イノシシ肉は、いわゆるジビエってヤツだ。
蒸した魚もある。海が近いのだろう。
他には、茹でた根菜類である。
デザートはコーヒーと、ブルーベリーのパイだ。
食べながらカミュに事情を説明する。
オレは日本で、ヤクザ稼業をしていた。
一〇歳で家を出てすぐ、組長に拾われてからずっとだ。
若頭まで務めさせてもらったが、組の中に裏切り者がいた。
彼を始末して、オレの記憶は途絶えた。
トウタスとして、オレは平凡な生活を送っていた。
村が毘沙門天を崇拝していたのは知っている。
西洋風な村の景色だが、宗教の制限が起きる前まで、堂々と毘沙門天を飾っていたらしい。
「異教徒の弾圧が激化したかも」とは、近くの街でもオレの村でも話題になっていたが。
「おそらく、キミの村が襲撃された事件は、異教徒狩りの仕業と処理されるだろうね」
「正当化されるってか?」
「うん。本当はモンスターに襲われたとしても、異教徒狩りなら、ロクに調査しない。適当に証拠をでっち上げて終わりさ。実に許しがたい」
カミュは興味深く、耳を傾けてくれた。
だとしたら許せねえ。
「ごちそうさんです。サティさん」
「サティで結構。これより同士になるのですから」
「ああ、それなんだが」
オレは、元の日本へ帰れないのか尋ねた。
カミュは、黙って首を振る。
「やっぱそうか」
「キミは向こうの世界で、一五年前に死んだことになっている。この世界で一五年生活してきたんだろ? キミの言う『クミ』だって、原形を留めているか」
確かに組員は全滅した。生き残っていたのは組長だけだ。
姐さんが、イラストレーターの仕事を得て、イタリアに引っ越してよかったと思うべきか。
「アンタの話も聞かせてくれないか?」
「じゃあ、事情を話すよ。どうしてボクが男装しているのかをね」
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