サティの願い

 おっかねえ。

 オレたちのメンバーで一番敵に回したら危険なのは、サティだな。神様だし。


「リ・ッキの甘言祈った時点で、貴方は咎人なのです。そんなことすら分からぬとは」

 まるでヘルヴァに興味をなくしたかのように、サティは背を向ける。


「帰るのかい、サティ」


「グールの脅威は去りましたからね」

 あくまで、サティはどこまでもクールだ。

「今日は大奮発して、力を使いすぎました。では私はこれで」

 カミュの問いかけに、サティは微笑みで返す。


「トウタス殿。必ずやタマミ殿をお救いください」

 意外な言葉がサティの口から発せられた。


「ああ。あんた、人間には興味ないって思っていたぜ」


「彼女には感謝しております。あなた方お二人が仲間になってくださったおかげで、我が主の周囲は賑やかに明るくなりました。亡きお父上の敵討ちだけを生きがいとしてきた、カミュ様の冷え切った心まで、あなた方は癒してくださった。主人に代わり、お礼申し上げます」


 オレの知らないカミュの一面を、彼は知っているようだ。


 そんなに暗い奴だったのか、カミュって。

 今の姿からは想像できないが。


「だからこそ、タマミ殿を拐かしたリ・ッキは許してはおけません。必ず始末してください。その後の処置は、この死神サティ、及び異国の神々どもにお任せを」


「任せてくれ」と返す。


「ありがとう。サティ」


「これ以上は手を貸せませぬ。ですが、あなたは先王カルンスタインの一粒種。きっと本懐を遂げましょうぞ。では」


 そう言い残し、サティは手を振って街の闇と同化した。


 役割を終えた神々も、姿を消していく。


 ライニンガーの亡霊らしき者たちが、ヘルヴァの亡骸に殺到した。


「姫よ、我と共に冥府へ帰りましょうぞ。これ以上、地上に迷惑はかけられませぬ」


 残骸をかき集め、地面の中に沈んでいく。ドラゴンゾンビも同じように。


「トウタス殿、我々は姫と共にこの世を去る。手は貸せぬことをお詫び致す」


 いいんだ。元々そういう約束だったからな。


「達者でな」


 オレを見つめながら、亡霊たちはいなくなった。


 さて、これで心置きなくタマミを、といきたかったが、そうはいかない。


 ゴールドの鎧を着た一団が、カルンスタインの門に集まっている。道を塞がれて、前に進めない。


「我々は、ペダン帝国の誇る大兵団である! カルンスタイン国に、我が国への襲撃容疑がかけられている!」


 一難去ってまた一難かよ。


 だが、海が割れるように、民衆が道を空けた。

 妙にざわついている。


 かと思えば、道を空けた連中が、跪き始めた。

 役割を終えた神々も、姿を消していく。


 一人の老人が、杖を突きながらトボトボと歩いてくる。

 不審がる兵隊長の前に、老人はピタリと足を止めた。



 カルンスタインの国王だ。

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