黒幕は病弱姫
ウィスプの取り憑いた武器を持ち帰る。
合流地点のオープンカフェでは、ハイモ卿がくつろいでいた。
彼には帰りもあるのだ。休めるウチに休むのも仕事か。
「なんか、姫様とか言っていたのが、気になるぜ」
ハイモ卿に、事情を説明する。
「ふむ。この紋章、どこかで」
卿が、確かめるように剣を弄ぶ。
剣に飾られた紋章に心当たりがあるようだ。
「もしや、ヘルヴァ・ライニンガー姫殿下ではないかのう?」
テーブルの上に置かれている、ハイモ卿の生首が語り始める。
「ライニンガーとは、遙か北にある雪に覆われていた都市じゃ」
ハイモ卿の口調は過去形だった。
つまり、もうその街は存在しないのである。
「待ってくれ! ライニンガーって言やあよぉ、カミュ!」
「ソフィーが教えてくれた、キャンデロロ男爵と接点のあった国だね」
世界有数の魔術国家であり、これまでも多くの魔導師が、ライニンガーの地で生まれたという。
「ライニンガーには、ヘルヴァという名の美しい姫がおったそうな」
しかし、病弱な彼女は、家から一歩も出られなかった。
噂では、今まで魔法に頼ってきた反動が、王族の一人娘にすべて降りかかったのではないか、と。
不憫に思ったライニンガー王は、冒険者を募り、世界各国から長寿の秘宝をヘルヴァ姫に与えた。
そのコレクションは、ハイモ卿や先代カルンスタイン王の比ではなかったとか。
だが、その努力も空しく、姫は若くして亡くなった。
跡取りを失ったライニンガーは、地図から姿を消す。
「冒険者の一人に、男爵もおったというのう」
それが、リ・ッキか。
宝探し中に、リ・ッキの魔力が籠もったアイテムを手にした可能性が高いと。
「黒幕はヘルヴァ姫か。手にしたアイテムからリ・ッキと手を組んで、わざと死んだ」
「ありえるのう。彼女は生きとし生けるものすべてを憎んでおった。リ・ッキとの相性は抜群じゃ。共に世界の転覆を狙っておってもおかしくはないわい。あの手際の良さ、男爵にしては膨大すぎる、統率力と資金力の高さ」
カミュとハイモ卿は、ヘルヴァって姫が事実上のボスと割り出しているらしい。
「だったら、その姫ってヤロウも」
「うむ、アンデッドじゃのう」
「で、この街を襲って、住人をウィスプで取り込んだ」
いくら小さな国とは言え、これだけの規模をアンデッド化するなんて。
「凶悪で、強力な相手だ。油断できない」
「なんて残忍なヤロウなんだ。危険すぎる」
オレは、ハイモ卿から剣を借りた。
「卿のオジキ、この剣だけど、オレに譲ってくれねえか?」
「それは構わんぞ。じゃが、どうした? 紋章以外は、特に変わった特色なんてないぞい。普通の剣じゃて」
「まあ、見てなって」
オレは、この剣に「保険」をかけることにした。
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