生足魅惑のアンデッド

 部屋に入るなり、サティの小言が。

「カミュ様、お召し物が乱れているではありませんか。あれほど表に出るときは慎重に、と申したはずです」

 サティはカミュの肩に手を回し、一回転させる。まるで泥んこで帰ってきた我が子を指摘するオカンのよう。

「すまないね」


 どうやらこのサティというガイコツ執事、カミュを甘やかしている様子はない。


「トウタス、悪いけど表で待っていてくれないか?」

 シャツのボタンに手をかける直前、カミュは責めるような視線をオレに送ってきた。

 オレは部屋を出る。いくら同性だからって、遠慮がなさ過ぎたか。


「あなたもお着替えを。隣の部屋をご自由にお使いくださいませ」

 カミュを置いて、サティはオレを隣の部屋のドアまで先導した。


「脱いだモノは、クローゼットの側にあるカゴに。シャワーもございます」


 シャワーがある、ねぇ。

 確か地球でも、一六世紀にはシャワーがあったらしいからな。


「分かった。遠慮なく使わせてもらうぜ」

「ワタシは夕食の準備を致します。では」と、サティは屋敷の奥へ去って行った。


 隣の部屋に入って、オレは息をのむ。

 ダンスホールかよ、と思わせるほどの広さがあった。

 オレの住んでいるアパートが、全室入るくらい広い。

 カミュの部屋ではカミュしか見ていなくて分からなかったが、これでただの衣装部屋とは。


 シャワーは、学校のプールにあるような、全身に吹き付けるタイプだった。

 珍しさもあって、ついつい楽しむ。

 身体を流し、身体を拭く。

 適当に洋服を吟味した。まあ、これくらいならマシだろう。


 オレは、側にあった姿見に自身を映した。

 うん。やはり普通の少年だ。見た目はキレイで、線も細い。樺島かばしま尊毘とうたす時代の鍛え抜かれた身体は、見る影もない。


 せっかくなので、下に目を移した。


 自慢だったソードオフも、今ではデリンジャーのサイズになってしまっている。一〇代後半だというのに、いまだ生えそろっていない。これが「ショタ補正」というやつなのだろう。


 同じなのは、童貞なことくらいか。


「ん?」

 オレは自分の背中に違和感を覚えた。妙に熱いのだ。何かが熱を持った物質が、オレの背中に張り付いている。


「これは!?」

 たまらず、オレは部屋を出た。

 裸足で廊下を駆け抜ける。


 ノックもせず、カミュのいる部屋へ。


「なんだこりゃ、カミュ! オレの背中に」


「きゃあ!」


 カミュの部屋に入ると、小柄な人物がビックリした表情でカーテンに身を隠した。やや胸の膨らみがあったので、少女だと分かる。セミロングヘアの髪がまだ濡れていた。彼女も入浴直後だったらしい。まだ着替えが済んでいないのだ。


 我に返ると、オレの方もマッパだと気づく。


「すんません、部屋を間違えました!」

 前屈みになって、退散する。


「部屋は合ってます。どうぞ着替えが済んだら戻っていらして」

「そうなんですか? では、ソッコーで戻ります」


 部屋に戻り、慌てて着替えた。


 今のは誰だ? 

 カミュに似ていたが、家族がいるのか。

 今度、本人に聞いてみよう。


 改めてカミュの部屋へ。 


「先ほどは失礼しやした。どうも、トウタス・バウマーです」

「こんばんは。カーミラ・バートリ・カルンスタインです」

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