フェロドニア騎士団

 パン屋の前で、チンピラ風の集団が暴れている。

 装備からして、冒険者と思われるが。


 外には、パンや商売道具があちこちに散乱していた。

 パン用ナイフに刻まれている紋章は、さっき話したドワーフの店でも見たぞ。


「ちょいとゴメンよ」

 オレは小さい身体を活かして、野次馬をかき分ける。

 

 右頬を抑えた男性が、チンピラ風の三人組を睨みつけていた。

「どうせお前たちの狙いは子どもだろ? この子は渡さない! 出て行け!」


「んだとぉ? 返すもん返せねえで粋がってんじゃねえぞ!」

 太っちょが、パン屋に拳を振るおうとした。


「粋がってるのはテメエらだろ?」

 いても立ってもいられず、オレは太ったチンピラの腕を掴んだ。塀へ軽く放り投げる。


「よってたかって弱いものイジメとは、冒険者様方も随分暇なこったな」

「このガキ! ケガしたくなかったら失せろ」


 ノッポのチンピラに胸ぐらを掴まれた。

 飛びつき式の逆十字で、掴んでいる腕を一瞬で折る。


「いでででで!」

 ノッポがオレから離れたスキに、アゴへ膝を喰らわせた。


 太っちょがナイフで刺そうと向かってくる。


 左手で受け止めた。手の甲を貫いて、ナイフが突き刺さっている。


 ギャラリーから悲鳴が上がった。


 オレは構わず、ナイフが手に刺さったまま、太っちょを天高く放り投げた。


 地面に叩き付けられ、太っちょは大きくバウンドする。


 残るはマッチョだけ。オレの強さを認めたのか、襲ってこない。


「テメエらのボスは誰だ? 話を付けてやるから呼んで来いや」

「大将さえいれば、テメエなんか」


 オレはすかさず、マッチョの懐に入った。


「強いヤツがバックにいねえと何もできんのか? だったら」

 ドンッ! とみぞおちに拳を放つ。ワンインチパンチだ。

「吠えてんじゃねえよ」


 悪徳冒険者が、膝を折って崩れ去る。


「まだやるかテメエ」

 ドスを利かせて、オレは悪徳冒険者を見下ろす。


「そこまでです!」

 ホイッスルが鳴り響いた。


 人混みがサッと割れる。


「フェロドニア領騎士団です! 道を空けてください!」

 やってきたのは、騎士団だ。白と赤の装飾が威圧的である。

 先頭に立つのは、なんと女性だ。


 ノビているチンピラ冒険者一団を、騎士団は乱暴に連行していく。


「んだよ、離せ」

 オレまで連れて行かれそうになったので、騎士の手を振りほどいた。 


「手を出したのはこいつらだ。彼は助けてくれただけです。ありがとうな、坊や」

 店のオッサンが話を付けてくれたので、事なきを得る。


「オッサン、借金って?」

「虚偽の借金です。何かと因縁を付けてきて、子どもをさらおうとしていて」


 ひどい奴らだ。


「騎士さんよぉ、ちゃんと調べてやってくれないか?」

「承知した。彼らは我々もマークしていた。徹底的に洗い出してやる」

 勇ましい表情を見せ、騎士はそう告げた。


 これで、この店は安泰だろう。


「トウタス!?」

 金髪碧眼の少女が、オレに抱きついてきた。服装からして、修道女である。

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