ドワーフ製のチャカ
「おうさ」
バラドはすぐさま、立てかけてあった剣と、銃をカウンターに置いた。
一般的な短剣だ。振ってみたが、軽くて扱いやすい。
個人的には、ドスを手にしたかったが。
だが、オレはもう一つ用意された武器を見て、驚く。
「銃があるのか?」
「まあね。魔力を撃ち出すため、ここ以外の世界から最近持ち込まれたモノだって聞く。ボクのは、もっぱらこれだけど」
カミュは、手持ちの銃を弄んだ。銃身が黒く、リボルバー式だ。
「素材はエボニアンっていう黒い鋼。魔力でコーディングした銀の弾丸を、火薬で撃ち出すのが一般的さ」
銃を構え、カミュは撃つ振りだけする。
「こんな感じで、ちょっとずつリ・ッキの配下をやっつけていたんだよ」
「待ってくれ、カミュって『シノギ』は何なんだ?」
業界用語を発してしまい、「仕事だよ。表向きの」とカミュに耳打ちする。
「ボクの仕事? 言ってなかったっけ?」
オレがカミュに問いかけると、バラドが首をかしげた。
「お前さん、コイツに仕事の内容、教えてなかったってのか?」
はにかんで、カミュは「うっかりしていたよ」と舌を出す。
「『クルースニク』ってヤツさ。いわゆるハンターだ」
「つまり、冒険者ってか?」
「冒険者の職種の一つだ。坊ちゃんは吸血鬼と人間のハーフでよ。悪い魔物をやっつけるのが仕事なんだ」
ふと、バラドが手を叩く。
「お前さんも冒険者志望かい? ウチで登録しときな」
「ギルドとか介さずにか?」
「今更そんな大昔のシステムなんてねえよ。冒険者ギルドは、今やクエストを探すところでしかねえ。カードなんてどこでも作れるぜ」
店舗の個人情報は、魔力で繋がっているらしい。
顧客の新規登録などの情報は、すぐさま冒険者ギルドへ送信される。
まるでクレジットカードの申し込みみたいだな。店でダイレクトに作れるなんて。
バラドの手引きで、冒険者カードを作成した。
どうせ、みなしごになったんだ。身分があった方がいいだろう。
「オーダーメイドも受け付けてる。何でも注文してくれ」
言いながら、バラドが金槌を手の中で弄ぶ。
そうは言っても、先立つものが。
「お金の心配はないよ。バラドには研究費として、一生困らないくらいの大金を払っているからね。キミの仕事道具くらいプレゼントするよ」
なんというホワイト企業っぷりだろうか。
ならばと、オレはこの世界で再現できそうな武器の形状を伝えた。
「まあ、なんとかやってみよう」
店を出て、オレは自分のカードを眺める。
「ゾンビでもカードが作れるんだな?」
「トウタス・バウマーの身分があったから、普通に通ったよ。ゾンビであるなんて、カードだけじゃ分からないから、安心していいよ」
街に危害さえ加えなければ、の話だが。破壊活度を行った際は、市民登録抹消どころか、財産も没収される。
「お前が女だってのは、あのドワーフは知らないのか?」
オレの耳にカミュが顔を近づけてきた。
「表向きは、ボクが魔王の娘だってことは伏せている。彼も、ボクを坊ちゃまって言っていただろ? 彼はボクを、『没落貴族を母に持つかわいそうな少年』だと思っている」
カミュは、宿とは反対方向へ向かう。
「どこへ行くんだ?」
「路地裏さ。奴隷商の情報を集める」
「オレも行こう」
「いいよ。キミは街の様子を頼む。怪しい奴がいたら、知らせて欲しい。あと、今のうちに買い物には慣れておいてね。いくらトウタス時代の記憶があるからって、なんでも覚えているわけではなさそうだし」
それならと、オレたちは別々に行動を開始した。
オレも行こうかなと思っていたら、遠くの方から怒鳴り声が。
パン屋の方角だ。
「バカ野郎! 借金返せねえならガキを渡しやがれ!」
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