ジャガンナート
おかしい。
ここへは、ペダン帝国の先発隊が到着していたはず。
しかし、静かすぎる。
確かに戦場の跡があった。
死体はモンスターだけではない。
大勢のペダン兵士も息を引き取っていた。
それにしては、妙な違和感があるのだが。
「二〇万の軍勢というのは見せかけだったようだね。少数を大人数に見せるための細工だったみたいだ」
そうだ。兵士の数が少なすぎる。
カミュに分析してもらって、ようやく把握できた。
せいぜい、五〇〇人くらいではないだろうか。
「まあいいさ。自国の防衛に当たったもらった方が、ムダに兵隊をリ・ッキに殺されなくて済むからね」
カミュは、苦笑いを浮かべる。
「あんな化物がいるなら、尚更ね」
屋敷の前に立つのは、銀の鎧を着た騎士だった。相変わらずの威圧感である。まったくスキを見せない。
「ジャガンナートだ」
船の先のように先端が突き出た、三角錐の兜を被っている。
鎧は全体的に丸い。
人間の装着物というより、巨大ロボットだ。
オレがガキの頃に見たアニメに出てくるような。
鎧自体が意識を持っているかのようだ。
彼の周りには、ペダン兵団たちが無残に倒れていた。
遺体と言うより遺物に近い。
どういう攻撃をされたら、こんなむごたらしい残骸になるのか。
モンスターの死骸も転がっている。
兵団も、奮闘はしたみたいだが。
「こいつ、強すぎる!」
屈強なペダンの兵士が、剣を持つ手を振るわせて怯えている。
「怯むな! ペダンの名の下に撃滅せよ!」
将軍が後ろから、兵隊に蹴りを入れた。
ヤケになった兵隊が、斬りかかる。
ジャガンナートの頭部に、剣が突き刺さった。
「でかした! いや、なんと!?」
ペダン兵隊長の笑みが、みるみる消えていく。
兜の中には、何も入っていない。
つまり、コイツは鎧だけの存在ってわけか。
亡霊騎士が大盾を展開した。
シールドによる打撃で、兵隊を蹴散らす。
兵士の四肢が、あらぬ方向へと曲がった。
五体すべての骨を折られたらしい。まるで交通事故にでも遭ったかのようだ。
兵士が地面に落ちてきた。白目を剥いて事切れている。
「アンタらは下がってろ!」
「何をう!? 我々は偉大なるペダン兵団なるぞ!」
「うるせえ。アンデッドに対して門外漢だって言ってるんだ。プライドが許さんだろうが、餅は餅屋に任せな。あんたらは他のモンスターを頼む」
渋々、将軍は引き下がった。
兵の身を案じてか、己の命が惜しいのか。
どっちでもいいさ。
「さあ、遊ぼうか。ジャガンナートさんよぉ」
粋がってはみたが、脂汗が止まらない。
落ち着けと、頭では指示を出しているのだが。
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