バーチャル美少年受肉異世界転生ゾンビヤクザおじさんとか設定盛り過ぎだろぉー!

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一部 バーチャル美少年受肉異世界転生ゾンビヤクザおじさん

第一章 美女とヤクザ

バ美肉異世界転生ゾンビヤクザおじさん

「親分に近づくんじゃねえ!」

 砂利を踏みしめ、オレは拳銃を構える。


 親分を盾にしたリキも、同じように銃を懐から取り出した。憎たらしいニヤけ顔を顔に張り付かせながら。


「リキィ! この裏切り者がぁ!」


「じゃかあしいんじゃ、樺島かばしまぁ! ワシはヤクザごときで終わるタマやない! 見てみぃ、この爽快な光景を!」


 抗争の舞台となった採掘場には、二〇〇体近い死体が転がっている。

 オレたちの組と対立していた組織は壊滅している。

 何かの儀式なのか、地面には赤黒い血液で模様が描かれていた。


力弥りきや、これがお前の本懐なのか。テメエは鬼か! 血が流れてんのか!?」

 脂汗を掻きながら、組長がリキに呼びかける。


「人間の器でしかないお前らには分からんわい! 組長はん、あんたの血で最後や」

 リキは、組長のアゴを銃口でなで回した。


尊毘とうたす、遠慮するな、撃て!」


 組長は言うが、オレは引き金を引けない。

 もし、組長に当たったら。


「オンドレが撃たれへんのやったら、ワシが撃ったるわい!」

 組長のこめかみに、リキが銃口を当てた。


「リキ、テメエ!」


 オレとリキの銃が吠える。


「り、き」


 オレは意識が遠くなるのを感じた。


 歳が近くても、最後まで気が合わなかった同士。

 結局こうなった。いつかは裏切ると思っていたが。


 ヤツにトドメをさせただろうか、確認もできない。

 これも、オレの罰だ。

 ビシャモン天の刺青モンモンに誓う。

 せめて、生まれ変わったら、争いのない平穏な世界で。


 


◇ * ◇ * ◇ * ◇


 真っ暗な世界で、誰かの口づけを受けた感触を覚えた。

 急激に、辺りが明るくなっていく。


「ぷはあ!」

 オレは目を覚ました。

 長い夢を見ていたようだ。


 身体が軽い。羽が生えたかのように。いや、本当に軽くなったのだ。


 どこだ、ここは? 辺り一面火の手が上がっている。


 それより、オレは誰だ? 発した声がヤケに高かったぞ。

 頭を触ると、トレードマークのアフロヘアではなかった。

 スネ毛ダラケだった足もスベスベだ。

 お気に入りだった、ワイバーンのサングラスもない。


 手に、水が跳ねた。どうやら水たまりに手を突っ込んだらしい。


 水たまりを鏡の代わりにした。

 オレじゃない、少年の顔が映り込む。

 金髪が、燃えさかる炎を照らし輝いた。

 顔中が煤だらけなのに、目鼻立ちが整っていると分かる。

 一〇代後半だと、なんとなく分析したが、背が小学生並みに小さい。

 気になって服をめくってみたが、色々と生えそろっていなかった。


「なんだ、この美少年は!?」


 イタリアで絵の仕事に就いた姐さん、オレ、アンタ好みの美少年になっちまいましたよ。


 自分の顔を触りながら、自分の身に起きた出来事を反芻した。


 自分は確か、リキを追い詰めて、相打ちになったはず。

 あいつは、よその組と組んで我が田島組たじまぐみを襲撃に来た。


 しかし、「水鏡に映ったコイツの記憶もある」のだ。


 オレは、「樺島かばしま 尊毘とうたす」であり、彼、「トウタス・バウマー」なのだ。


 そう認識した途端、トウタス・バウマーだった頃の記憶が流れ込んでくる。

 この世界が、地球ではないこと。いわゆる異世界であることも、自分が平和な村人Aだったトウタス少年であると、記憶が言っていた。


 平凡な少年として生まれたオレは、モンスターに村を襲撃されて死んだ。それは確かである。現に、体中が傷だらけで、致命傷の腹の傷は塞がっていない。


 これがあれか? 

 イラストレーターの仕事をしている姐さんの言っていた、『ばびにく』ってやつか? 


「バーチャル美少女受肉」の略だとか。

「美少女」のところを「美少年」に置き換えてもいいらしい。


 つまり、今のオレは「バ美肉異世界転生ヤクザ」か。

 設定盛り過ぎだな。


 でも、どうやって生き返ったのだろう?


「気がついたかい?」

 背後から、鈴のような声が聞こえてきた。


「うわあ!」

 慌てて飛び退く。


「ひどいなあ、命の恩人にそんな態度は」

 少年と言えばいいのだろうか。美少女とも呼べる少年が、オレの前にいた。


 銀色の髪。英国のトラディショナルな服装に、膝までのズボン。どこかの貴族様か何かだろうか。

 だが、肌は病的なまでに白く、赤い瞳は血液を連想させる。


「ボクは、カミュ。カミュ・シェリダンだ。キミらの世界で言えば、ヴァンパイアと言えばいいかな?」

 カミュと名乗った少年は、礼儀正しく挨拶をした。


「ヴァンパイアだと? てことは?」

「厳密には生き返ったと言うより、キミはボクの眷属になった。いわば、ゾンビだね」


 なるほどね。


 つまり、今のオレは、


『バ美肉異世界転生ゾンビヤクザおじさん』


 である、と。


「は、はは……」

 設定、盛りすぎだろーおっ!

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