第一部 完結 さらば、愛しきヴァンパイア

宇宙規模死体蹴り

 全てが終わって、数日が経過した。


 オレたちは、再びあの湖の向こうへ。


 湖周辺が整地され、キャンデロロの屋敷跡に生きやすくなっていた。モンスターの気配も消えている。


 あの後、崩れたキャンデロロ邸の跡地に、男爵を模した石像が彫られた。

 雲一つない空を仰ぎ、腕を高々と挙げてそびえ立つ。


 リ・ッキ打倒のきっかけを作ったのが、キャンデロロ男爵であるとして、カルンスタイン王が作らせた。


 石像の前には、献花や参拝に来る人が多数いる。


「だから、一連の事件はペダンの功績だと言っている!」

 キャンデロロ男爵の像の前で、ペダン兵団の将軍が声を荒げていた。リ・ッキを退治したのはペダンであると。


 だが、参列者は誰も将軍の話を信じない。

 将軍を素通りし、男爵の像に祈る。

 男爵が身を挺して、世界を救ったのだと思っていた。


「大した盛況ぶりだな」

「ボクたちが、そう仕向けたからね」


 男爵の像を称えるように、他の神々の像が取り囲んでいる。


「これは?」


「誰かが像に祈る度、リ・ッキには一万人分の激痛が伴う仕組みになっている」


 邪悪の化身であるリ・ッキにとって、善なる祈りは苦痛でしかない。


 キャンデロロが英雄として祭り上げられるごとに、リ・ッキはもだえ苦しむ。


「いい気味だよ。彼は父を殺した。せいぜい苦しむといい」

「けどよ、いくら力を封じたとは言え、不老不死を手に入れたんだ。また襲ってくるんじゃ?」


 その心配はないと、カミュは断言した。


 宇宙の果てにブラックホールがあり、リ・ッキはそこでミキサーのようにずっとかき混ぜられ続けるという。

 身体を引きちぎられては再生し、またズタズタになっての無限ループだ。


「彼は邪神から見放された。それだけで大打撃さ。今後は、よその神々から永遠に責められ続ける。宇宙規模の死体蹴りだよ」


 それはいい。あいつは反省しないからな。

 そこで痛めつけられれば、自分から死にたくなるだろう。


「本当にいいのかい? 自分で仇を取りたかったんじゃ」

 カミュの問いかけに、オレは首を振った。


「あいつがこの世界から居なくなれば、それでいい。それより、あんたがここにいてくれる方が、あんたの側で働かせてもらう方が、オレにとっては嬉しくてたまらねえ」


「そうだね、キミの言うとおりだ。いい気味だ!」

 空に向かって、カミュは叫んで見せた。


 けれども、ちっとも嬉しそうじゃない。

 苦々しい顔で、空を睨む。


 カミュの気持ちを代弁しているのか、空がしとしとと泣き出した。


 オレの方を向き直し、また、カミュが清々しい顔に戻る。


 作り笑いなのが、オレでも分かった。


「もうこれで、思い残すことはないよ」

「カミュ、オレは納得できねえ! お前さんが死ぬ必要なんて」

「いいんだ。これまでありがとう。キミはもう自由だよ、トウタス」


 そんな自由なんて、いらねえよ。


「おお、こんな所にいたか」

 背後から男性が話しかけてきた。フェロドニア騎士団長だ。

「準備が出来たぞ、カーミラ殿」


「ああ。どこへなりとも連れて行けばいい」

 諦観の表情を浮かべ、カミュは騎士団長の後に続こうとする。


「待ってくれ、どうしてカミュが死ななきゃならない!」

 オレはカミュの前に立ち、庇う。


「は? お前たち、何も聞いてないのか?」

 騎士団長が、打ち合わせの内容を語り始めた。


「マジか?」


「神に誓って嘘はついていないよ」

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