脱出!

 オレたちは元の場所に戻った。


 だが、めまいを起こして身体がふらつく。


 カミュも、同じ状態になった。


「トウタス、カミュ君!」

「お兄ちゃん、おやぶん!」

 セェレとタマミが、目を覚ましたオレたちを支える。


「大丈夫だ。心配かけたな」

「トウタス、見て」

 カミュが、目の前の空間を指さした。


 空間が閉じる。

 今度こそ、リ・ッキはこの世界から消滅したのだ。


「終わったな、カミュ」

「キミのおかげで、戻ってこられたよ。ありがとう、トウタス」


 カミュと、互いに見つめ合う。


 だが、一息付けたのも束の間だった。

 地鳴りがして、天井から砂が大量に落ちてくる。


「崩れるぞ、避難しよう!」


「待って、入り口が!」

 全員が駆け出そうとするのを、セェレが止めた。


 瓦礫が落下し、入り口が塞がれる。


「任せて!」

 セェレがモーニングスターを振り回す。鉄球で近くの窓を割る。


 オレがカミュを、セェレがタマミを抱え、揺れる屋敷内を脱出した。



 モンスターたちも散り散りになる。

 退避が間に合わず、瓦礫の下敷きになる魔物もいた。


 カミュの肩を抱きながら、足を引きずる。

 思っていたよりダメージが大きい。

 虚無の空間に飛んだときの負担が凄まじかったようだ。

 本格的な治療が必要かも知れない。


「ペダンのおっさん、もう逃げた方がいいぜ!」

「承知! 全軍退却せよ!」


 将軍の一声で、ペダンの軍勢が屋敷から逃げていく。


 モンスターたちも、戦意を喪失しているのか、襲ってこない。


「オレたちもずらかるぜ」

 全員を乗せたボートが岬から離れた瞬間、キャンデロロの屋敷が完全に崩壊した。


「終わったんだ。ボクの復讐が」

 ふう、とカミュがため息をつく。


「それにしても、どうしてリキは、お前さんを殺せなかったんだ?」


 あの場面は、絶体絶命だったように思う。

 どうあがいても、勝ち目がないように思えたが。


「あ、キスだ!」

 照れながら、カミュが口元を押さえる。


「そうか、キミに無理矢理キスをされたから、キミの不老不死のう効果が、一時的に聞いたんじゃないかな? それで一応せつめいがつくね」


 セェレに鼻血を吹き出させるだけだった作戦が、功を奏したらしい。


「ともあれ、キミがいてくれてよかった。キミがノーライフキングを、リ・ッキを倒したんだ」

 カミュがオレの首に腕をかけて、抱きしめた。


「そうだな。無事でよかった」

 上の空でオレは答える。 


「どうしたんだい、ボーとして?」

「いや、なんでもねえ」



 言えなかった。



 邪神が取り憑いた状態のタマミの口調が、『姐さんに似ていた』なんて。

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