国王の過去

「これでも我々が、よその国へ攻め込む思惑があるとお思いか? あなた方のような『小国』を、我々偉大なるカルンスタインが、相手にするとでも?」


 ペダンの将軍に対し、国王は凄みを聞かせた。


「はぁ、は、はい」


「だったら、あなた方が刃を向けるべきはどちらなのか、この状況を見て、よくご存じなのでしょうな?」


 目を泳がせて、ペダン兵たちは男爵の屋敷がある方角と、国王を見比べる。



「ああ、どうなんだ! 答えろよオラァ!」



 オレがビックリするくらいの、ドスの利いた声で、国王が将軍を煽った。


 苦い顔をしながら、ペダン国の将軍は「失礼致しました」と頭を下げる。肩を落としながら、男爵のいる方向へ向かう。


「すげえな、アンタ。気迫だけでペダンの兵隊を追っ払うなんて。どれだけ肝が据わって?」


「はあ、ワシ? 元ヤン」


 翻訳機能から、どうもカルンスタインの王様は、相当ヤンチャだったらしい。


 そういえば、セェレが言っていたじゃないか。

「王の寝室に入った賊が、返り討ちに遭った」と。


 もしかすると、王自らが撃退した可能性だってありえる。

 このジイサンを見ていたら。


「それじゃあ、通路の壁にあった肖像画は」

「それはワシだ」


 九〇歳とは思えない満面の笑みで、国王はVサインを決めた。


 あのモヒカンが相手なら、ペダン帝国はもう、この国にちょっかいはかけてこないだろう。

 手を出せば自国がどんな惨状になるか分かったからな。



「今日は色々あってくたびれた。事後処理も控えておる。ここで失礼させてもらおう」

「ああ、すまねえ」

「これで貸し借りはなしだ。カミュ殿を味方にできんのは心残りだが」


「待ってくれ。あんた、なんで来てくれたんだ?」

 国王に向かって「あんた」はないか、とも思ったが、オレは王を呼び止めずにはいられない。


「国を守る。弱者を守る。それが、我々生きている者の勤めだからだ」

 国王が、聞き覚えのある言葉を、オレに贈ってきた。


「その言葉は、オレの」


「では、武運を祈る」

 国王は、騎士団を引き連れて、指示を出し始めた。


 これでやっとタマミを探索できる。


「凄い、凄いよトウタス。やはり、キミはボクが見込んだとおりの男だった!」

 カミュがオレに抱きついてきた。

「ドラゴンゾンビなんて、よく味方にできたね?」

「まあな。いざという時に役立つと思ってよ」


 あの保険がなかったら、さらに手こずっていただろう。


「おまけに、国王の心まで動かすなんて! キミってどれだけすごいんだ!」

 カミュの賞賛は止まらない。


「あふう!」

 それで、サティの鼻腔が噴火しないはずもなく。

「申し訳ありません。こんな一大事に萌えてしまって」

「多分、一大事だからこそだろう。神経が興奮しているんだ。せっかくだ。サービスしよう」

 わざと、カミュはオレを強引に抱き寄せたり、胸元をはだけさせたりした。

「あばー」

 そのたびに、セェレは面白いリアクションを取る。

「待てよ。そうだ。そうだよ、これだ!」

 オレは狂気を孕んだ声を上げる。

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