第4話 5ポイント獲得しました


 ちっちゃい人間だ。


 ちっちゃい人間だ!!


 ……変なテンションになってしまった。


 ガラスのドームの中の草原を、ちっちゃい人間が歩いていた。


 しかも、自分たちのような人間ではない。

 人形のようにずんぐりとしていて、どんぐりのような形なのだ。


 アレだ、パワ〇ロ。

 野球選手育成ゲームの代表作。


 調べてみると、二頭身か三頭身というのか。

 とにかく、そんな感じなのだ。


 おっさんらしい男性(だと思う)が、鍬で地面をおこしている。

 どうやら、畑をつくろうとしているらしい。


 おれはその様子を、どきどきしながら見ていた。

 もはや駆除剤も、空腹も忘れていた。


 これはいったい、なんだ?

 試しにガラスに触ってみるが、おっさんに反応はなかった。


 持ち上げようとも試みたが、びくともしない。

 このドーム、かなり深く埋まっているようだ。


 一時間ほどすると、ドームに変化が起こった。

 草原が、うっすらオレンジ色に染まったのだ。


 夕焼けだ。

 すると、小屋から誰か出てきた。


 やはり二頭身くらいの女性だ。

 おそらく、奥さんだろう。

 なかなかの美人さんだと思う。

 よくわからないけど。


 すると旦那さんは畑を耕すのをやめて、小屋に入っていった。

 小屋の隙間から、夕餉らしい白い煙が出てきた。


 そこで、ぐうっと腹が鳴った。

 そういえば、おれも飯を食っていない。


 へなへなと、部屋の隅に寄せたちゃぶ台の前に座った。


「……なんだ、これ?」


 いよいよ、わからない。

 コンビニ袋から出したおにぎりも、味がよくわからなかった。


「最近の玩具は、ここまで進化しているんだなあ」


 ゲームの新作とか、もはや実写だもんな。

 こんなゲームがあっても、不思議じゃないとは思うけど。


 でも、そもそも、誰が置いたというんだ?


 これ以上、なにも考えられなかった。

 ドームの中も、すっかり夜になっている。


 とりあえず駆除剤を置こう。

 穴の中に粒剤をざらざら落として、おれはその日は眠りについた。




 翌朝、おれは起きると同時にドームを覗いた。

 どうやら、まだ夜が明けていないらしい。

 微妙にこちらのほうが時間を先行しているらしい。

 設定をいじって、どうにか合わせられないものか。


 とりあえず、いまは変化は望めないだろう。

 おれはうしろ髪を引かれる思いで、会社に向かった。


「先輩。おはようございます!」

「おう、おはよう。岬は今日も元気だなあ」


 会社の最寄り駅で声をかけられた。

 どうやら、同じ電車に乗っていたらしい。


「先輩。今日の仕事上がり、お暇ですか?」

「どうした? なんか、厄介な案件あるの?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」


 両手を合わせて、可愛く首をかしげる。


「いっしょに、ご飯、どうですか? ……みたいな?」

「パス」

「即答!!」


 大げさにのけ反るような体勢になる。


「どうしてえ? 一人で仕事するようになって、明らかに冷たくなりましたよねえ。あのころは外でも中でもずっと可愛がってくれたのにぃ」

「そういうこと、ひとがいるところで口走るのやめてくんない?」

「いやですぅ。先輩にはこういうのが効くって知ってるんですぅ」


 なんて小賢しい。

 誰だ、こいつを矯正しなかった教育係は。


 おれだった。


「いや、ちょっと大事な用事があってな」

「可愛い後輩よりもですかー?」

「自分で可愛いとか言っちゃう女子を、おれは信用していない」

「うそです不細工です、わたしは世界で最高にデブいです」


 女子のプライドはないのか。

 こいつがそんなこと言ってると、近くを歩くお姉さまたちから睨まれるからやめてほしい。


「また今度、ちゃんと時間あるときにおごってやるから」

「絶対ですよー?」


 これは実現するまで言われそうだ。


「ハア。先輩と見せっこしようと思って、可愛いブラ選んできたのに」


 さすがに殴って黙らせた。




 そわそわしながら業務を終え、おれは超特急でアパートに戻った。

 そうして、例のガラスのドームを覗き込んだ。


 昨日と変わらない風景だった。

 男性が、畑を開墾している。


 なんだ、つまらん。

 もっとこう、町ができていたりするかと思ったのに。


 こんなことなら、岬を飯に連れて行ってやるんだった。

 そんなことを思っていると、ドームの隅っこの光景が目についた。


 そこに、巨大なモグラらしき生物がいた。

 いや、現実のものと比べて、明らかにデフォルメされたモンスターだ。


 それが仰向けにひっくり返っている。

 そして、その脇に落ちているのは――。


「……これ、昨日の駆除剤じゃないか?」


 それは確かに、そのように見えたのだ。

 同時に変化が現れる。


『5ポイント獲得しました』


 そんな文字が、モグラの上でくるくると回っていた。

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