第46話 緊急クエストが発令されます


 パソコンの前でうなった。


「ふうむ。そういうことか……」


 先日、ニンニクが育たなかった理由がわかった。


 ニンニクは一片から二本以上の芽が出ることがある。

 一本以外は摘み取らなくてはいけない。

 でなければ、球根が大きく育たないという。


 それに、(現代での)春先には、葉先にトウが立つことも多い。

 早い段階で摘み取らなければ、これも球根が育たない要因だ。


 改めて、葉を思い出してみる。

 素人考えで「よく茂ってるなあ。これはよく育つだろう」とか喜んでいたが、それがよくなかったようだ。


 葉が茂れば茂るだけよいというのは、すべてに通じるわけではないらしい。

 これは勉強になったものだ。


 ……っと、考えているうちに、鍋ができたようだ。


 今日は珍しく一人だ。

 女性陣は岬に連れられ、向こうで女子会に興じているらしい。


 ……二日後には、例の商人の引き渡しが行われる。

 すでに帝国兵は山道を越えて、北の町【テスタ】の前に陣取っているころだという。


 いよいよ、戦争が始まる。

 さすがに平然を装っていても、サチたちも精神的に弱っている。


 やはり岬がいてくれて助かった。

 新卒の若者だと思っていたが、こうしてみると、支えられているのはおれのほうだ。


 ……いかんな。

 なんだか、先日から妙な気分になる。


 気を取り直して、食事の準備だ。

 久しぶりの一人の時間、おれは鍋の試作をすることにした。

 週末には、柳原を呼んで鍋パーティの予定だ。


 一応、三種類くらいのスープを作ってみた。


 定番の醤油。

 身体に染み渡る味噌。

 そしてあっさり系の塩だ。


 スーパーで買ってきた特売の鶏肉と、シイタケ、長ネギ、あと締めのうどん。

 ひとりだし、具はこんなものだろう。


 それらを三等分して、コトコトと煮込むこと十数分。


「ふっふっふ。さて、どうかな」


 それぞれをお椀に用意すると、テーブルに並べた。


 まずは醤油から。

 そっと春菊を口に運んだ。


 ……うまい。


 こんなに風味の濃い春菊は、出会ったことがない。


 やはり向こうの土地で作った作物は最高だ。

 カガミが戻ってきたら、本格的に畑の拡大を提案してみよう。


 それぞれの味を試した結果、やはり醤油がいいだろうと思った。

 もぐもぐと食べながら、山田村の様子を見る。


 ……岬たちは、っと。あれ?


 思わず、お椀を取り落としそうになった。



―レベルが上がりました―

◇山田 村 

 ◆レベル   10(次のレベルまで975ポイント)

 ◆人口    4

 ◆ステータス 精神不安C

 ◆スキル   神獣の守護C


―増築が可能になります―

◆温泉

◆水路(拡大)

◆ため池

◆水車小屋

◆運搬路


―以下から、新しいスキルを選択してください―

◆モンスター出現率ダウン

◆交渉C

◆知名度アップ



 道ができたせいか、新しい項目も増えている。

 いや、それも気になるのだが……。



―サイドエピソード【迫りくる魔の手】が解放されました―



 ……なんだか、嫌な感じのタイトルだ。

 カガミになにか、危険が迫っているのだろうか。


「……これは、おれだけで見るようなものではないな」


 山田村に向かうと、サチたちを呼び寄せた。




 ――そこは夜の草原だった。


 画面の左手に、森が広がっている。


 そこに、荒くれ者の集団がいた。

 それぞれが斧とか剣とか、そういった武器を携帯している。


 彼らの前には、一人の男が立っている。

 衣服が派手なことから、おそらく貴族だろうということだった。


『手はずはわかっているな?』


 男の言葉に、荒くれ者のリーダーがうなずいた。


『わかってるよ。おまえらが【テスタ】で戦争してる間に、おれたちが迂回して、本拠地の周辺で暴れる。やつらの戦力を分断させて、一気に片をつけるんだろ?』

『タイミングが重要だ。先に暴れられると、作戦が台無しだからな』

『旦那は心配性だな。四日後の正午。まあ、それまで小せえ村での略奪くらいは大目に見てくれるよな?』

『……派手にやるなよ。〝食い散らかし〟が参戦するという話は、すでに向こうに伝わっているはずだ』


 荒くれ者たちは笑った。


『でもよう。本当に、この魔術札でモンスターを避けられるのかよ?』

『それは保証する。おまえたちも、先日の実験を見ただろう』

『ありゃ、たまげたぜ。モンスターの隣を歩いても、気づかれねえもんよ。こいつがあれば、こっちの仕事も楽になる。今回の報酬に、この札をオマケしてくれないか?』

『……この戦いに勝利すれば、その一枚をくれてやる。どうせ返す気もないだろう』

『話がわかって助かるぜ。それじゃあ、また【ケスロー】で会おうか』


 そう言って、荒くれ者たちは森へと進軍していく。


『下手を踏むなよ』

『ハッ。誰に言ってんだ? おれたちゃ〝食い散らかし〟だぜ?』


 荒くれ者たちが消えると、貴族は舌打ちした。


『……フンッ。傭兵風情が』




 ……相変わらず、よくわからん。

 ただ、嫌な予感だけはあった。


 胸騒ぎがする。

 おれは、初めてこの映像を見るイトナたちに聞いてみた。


「……なあ、イトナ。いまの映像に、心当たりはないか?」

「いえ。わたくしも、わかりません」


 まあ、ただの草原と森だからな。

 他に目印になりそうなものもない。


 そう思っていると……。


「……そ、そんな」


 メリルが震えていた。


「あれは、〝食い散らかし〟です!」

「それはなんだ?」

「帝国で最強の傭兵集団の一つです! 今回の侵略のために【カイ=ザ】に雇われたという情報があって……」

「でも、あいつら、森に入っていったぞ」

「あれは、おそらく【魔の森】です。ほら、あの村から東にある……」



 ※山田村の周辺


        北の町 山山山      

       [テスタ]山山山      

 共和国領    ↑   魔  帝国領  

[ケスロー]←[山田村]→の→[カイ=ザ]

         ↓   森       

       [例の穴]         

       崖崖崖崖崖         



「これまで【魔の森】はモンスターの生息地として、天然の要塞でした。そこを渡ろうとするなんて……」

「……いま、モンスター除けのなにかを持ってるって、言ってたな」


 つまり、やつらはモンスターの出現を抑える手段を持っている。

 森を抜ければ、兵を【テスタ】に送ったせいで無防備な【ケスロー】が目と鼻の先だ。


「はやく、ご主人さまに知らせないと……」


 そのとき、新しい文字が表示された。


―緊急クエストが発令されます―


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