第45話 ……なんかすまん


「えー、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」


 畑の前で、挨拶を行う。


「今日は男手が少ないですが、その分、みなさん協力して作業をしましょう」


 各々から「はーい」と声が上がる。


 今日の参加者。

 おれ、岬、サチ、イトナ。


 今日は柳原も、どうしても手が空かなかったらしい。

 まあ、今日は力仕事が少ないので、どうにかなるだろう。


 それに、助っ人もいる。


「本当に、手伝ってくれるのか?」

「お世話になっている以上、働くのは当然でございます」


 メリルがうなずいた。

 でも、さすがにメイド服で農作業はしないよな。


 ……しないよな?


「よし。じゃあ、玉ねぎからやるぞー」

「はーい」


 役割分担は、前回の収穫とほぼ同じ。

 おれ、岬、サチの三人で掘り起こし。

 イトナ、メリルで保存のための処理だ。


「しかし、こうなると保存用の施設が欲しいよなあ」


 今回の玉ねぎは小屋の外に吊るし台を設置した。


 しかし収穫物が家族の生活空間を圧迫しているのは事実だ。

 前回のジャガイモも、小屋の隅に積んであるままだ。


 ホームセンターで農作物の保存庫を見てみた。

 アパートに持ち込めるサイズだと意味はない。

 費用のほうもすごいことになってしまう。


 となると、こっちでつくるしかない。

 そうなると、やはりカガミの力が必要だ。


 そのカガミのためにも、いまは収穫に集中しよう。


「サチ、はやくカガミが帰ってくるといいな」

「はい! わたしも頑張って、お父さんをびっくりさせますからね!」

「その意気だ。ほら、そっちの株を持ち上げるぞ」


 次々に玉ねぎの株を持ち上げる。

 サイズは申し分ない。


 ただ、小玉になってしまったものも多かった。

 こういうものは先に処理してもらうことにする。


「土の栄養が偏ったのかな」

「そうかもしれませんね。でも半分以上は大丈夫だって、イトナさんが言ってましたよ」

「でも、悔しいじゃないか……!」

「先輩、変なところ真面目ですよねえ」


 やはり種類が違うものを、いっしょくたに植えるのはまずかったか。

 これは次回への教訓としよう。


 玉ねぎは湿気を嫌うので、外で吊るして保存する。

 イトナたちは収穫した玉ねぎの土を払い、それをロープで吊るしていく。


 次はルッコラと春菊の収穫だ。

 大きめのハサミで、ばっさばっさと切り落としていく。


 しかし、サチの作業ペースが落ちている。

 微妙な顔で、お尻を押さえてこっちを見ていた。


「……サチ、どうした?」

「尻尾の付け根がきゅっとなって……」


 春菊と、サチの尻尾を見比べる。


「……なんかすまん」


 おいしい鍋を作ってやろうと思った。


 そして最後に、柳原(不在)が熱望していたニンニクさん。


 ……なのだが。


「うわ。こりゃ、ダメだな」


 完全に空振りだった

 球根が育たずに、草だけが茂っている。


 やはり、いっしょくたに育てたのが原因だろうか。

 あとで帰って、原因を調べてみよう。


 とにかく、収穫組の仕事は終わった。

 ずいぶん腹が減ったと思ったら、すでに昼過ぎだった。


 おれはイトナたちの作業に合流して、岬とサチで昼食の準備をしてもらうことにした。


「調子はどうだ?」

「あ、はい。神さまが用意してくださったロープが、大変よいです」


 ビニールロープのような素材も、確かにこちらでは珍しいだろう。

 便利だったなら、また購入して送っておこう。


「あの、山田さま。こちらの葉物野菜は?」

「それは冬の保存用ではないから……」


 イトナはわかっていたが、メリルもなかなか手際がいい。


「貴族付きのメイドというから、こういう仕事は苦手だと思っていたな」

「もともと、西の小さな村の農家に生まれました」

「へえ。じゃあ、どうしてメイドに?」

「巡察のときに、クレオさまに野犬から守っていただいたことがあります。そのときに、お仕えするようにと」

「ふうん。なるほどな」


 メリルの容姿を確認する。

 まだあどけないが、可愛らしい少女だと思った。


 ……あのサイドエピソードでも親しげだったし、おそらくそういうことなのだろう。


「クレオのことは好きなのか?」

「え?」


 すると、彼女は照れたようにはにかんだ。


「は、はい。兄上さま方もご立派な方ですが、クレオさまも負けていません。もし世継ぎの権利を持っていましたら、よき領主になっていたでしょう」

「ああ、確か、第三子、と言っていたな」

「ええ。まあ……」


 微妙な表情でうなずいた。

 なにか、間違ったことを言っただろうか。


「まあ、そうだな。あいつなら信用できると思う。……あ、貴族に、あいつはまずいよな」

「ご主人さまは、そのようなことは気にしません。領民にも、とても気さくに接します」

「そりゃ、よかった。あとで打ち首とか言われたら困るからな」


 笑いながら、考える。


 つまり『人質』にメリルを指名したのは、彼女を戦火から逃す意味もあったのだろう。

 なかなか策士だと思うし、そのことは悪く思うこともない。


 みんな、それぞれ大事なひとを一番に考えるのは当然だ。


「先輩。ご飯できましたよー」


 岬たちが昼食を呼びに来た。


「なに話してたんですか?」

「ああ、いや。別に……」


 その肩を叩く。


「いつもありがとな」

「え。なんですか。先輩っぽくないんですけど……」

「まあ、たまにはいいだろ」


 ……つい、メリルの話に引っ張られてしまった。


「あ、パンツ見せてって頼んでも今日はダメですからね」

「……これがなければなあ」


 できれば食事の前にはやめてほしい。

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