第5話 徹夜になりそうな気がしていた


 ポイント?


 あまりに唐突な展開だ。

 これでは、本当にゲームのようだ。


 そう思っていると、さらにドームに変化があった。


 ガラスの表面に、小さな文字列が生まれたのだ。



―名無し 村― 

 ◆レベル   1(次のレベルまで15ポイント)

 ◆人口    3

 ◆ステータス 正常

 ◆スキル   なし



 確信した。これはゲームだ。

 ステータス画面のようなものを眺めながら思った。


 というか、これ村だったんだな。

 人口が三人らしいし、村といえるか微妙なところだけど。


 そういえば、おれが見たのは、この男性と、その奥さんだけだ。

 もしかして小屋の中に、まだ人間がいるのだろうか。


 見たい。

 ものすごく見たい。


 しかし、このガラスのドームは俯瞰した風景を映すだけだ。

 視点を変える機能はないものか。

 試しに、そのステータス画面を突いてみた。


 一向に変化はない。


 おっと、そうだ。

 このハンドルがあった。


 もしかしたら、これがそういう機能を持っているかもしれない。


 えい、と右に回してみる。

 すると、本当に視点が移動した。


 ただし、右側にずれただけ。

 俯瞰した風景なのは、一向に変わらない。


 左に回してみる。

 元の場所に戻った。


「…………」


 なんだか、おちょくられたような気分だ。


 このハンドル自体をぐるぐる回したりはできないのか。

 いや、できないな。


 ……つまらん。

 まあ、しょうがない。

 いくらゲームの住人だろうが、プライバシーは大切だ。


 この二人が夫婦ということは、もしかして子どもだろうか。

 一人で出てこないということは、まだ赤ちゃんかもしれないな。


 まあ、そのうちわかるだろう。

 おれは昨日と同じように、ちゃぶ台に置いたコンビニ袋を手にした。


 ……そういえば、岬のやつ、最近やけに食事に行きたがっているな。


 そんなに金欠なのだろうか。

 まあ、今月は社員旅行もあったし、出費が厳しいのだろうな。


 今朝、言われた文句を思い出した。

 確かに最近は、あまり話していなかったような気がする。


 明日は金曜日だし、予定がなかったら食事に連れて行こう。

 そんなことを思いながら、再びドームを覗いた。


「うん?」


 モグラの死体が増えていた。

 同時に、駆除剤が減っていた。


―5ポイント獲得しました―


 ははあ。

 これを食ったせいで、モンスターが死んだのか。

 すごいな、現代の駆除剤。


 ステータス画面も、少しだけ更新された。

 あと10ポイントでレベルが上がるらしい。

 どうせだから、今日のうちに上がらないものか。


 いつの間にか、食い入るように見ていた。


 すると男性が、モンスターの死体に近づいた。


 もりもり解体している。

 非常にコミカルな絵柄で、ざくざくとモンスターに刃を突き立てる。


 モンスターがいなくなり、代わりにそこに肉が現れた。

 なんだか、ステーキ肉のような絵柄だ。


―食用肉×2を獲得しました―


 食うのか。モグラ。


 こっちのモグラって、食べられるのかな。

 今度、ネットで調べてみよう。


 そう思っていると、またガラスがオレンジ色に染まった。

 昨日と同じように、奥さんが呼びに来る。


 さて、今日はこのまま終わりだろう。

 そう思って、シートをかぶせた。


 少しだけ、このゲームが見えてきた。

 つまり、この穴から入れたものが、ゲーム内部に反映される。

 それによって村に変化が起きて、ポイントが加算されるというわけだ。


 まあ、あくまで可能性だ。

 まだ何度か試してみないといけない。


 すげえなあ、いまのゲーム。

 現代の小中学生たち、こんな遊びしてるのか。

 そりゃ、外に出たがる子どもが減ったのもわかる。


 しかし、畑がまったく進んでいないな。

 農業のことはわからないが、一から開墾するのは時間がかかるのだろう。


 どうにか、早めることはできないだろうか。

 そう思って、パソコンを立ち上げる。


『 開墾 方法 』


 ……なんとなく、今日は徹夜になりそうな気がしていた。


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