第41話 これから慣れていけばいい


「神さま。大丈夫ですか?」

「ああ、うん。さっきより、痛みは引いたよ」


 急遽、岬にシップを買ってきてもらった。

 それを貼ってもらい、こうして植え付けの様子を眺めている。


「神さまの国では、こんな病があるんですね」

「カガミは、なったことがないのか?」

「はい。向こうでは、みんなぎっくりごしになるんですか」

「ああ、たぶんな」


 さすが、カガミたちは鍛え方が違うか。

 いや、鍛え方でどうにかなるものでもあるまい。

 おそらく、骨格から違うのだろう。


 ……決して負け惜しみとかではなくてな。


 おれの相手をしながら、サチは草を編んでいる。

 カガミの草鞋が切れかかっているらしい。


「はあ、すまんな。手伝いに来て、迷惑をかけることになるとは」

「いいえ。神さまには、いつも助けてもらってます!」

「そう言ってくれると嬉しいよ」


 一応、ぎっくり腰の一歩、手前といった感じだ。

 今日と明日は安静にしていれば、月曜は仕事に出られるだろう。


 と、畑のほうから岬がやってくる。


「せんぱーい。区画が決まりましたー」

「おう。よくなったら、おれも手伝いに行くよ」

「いえ、じっとしててください。わたしが――って、先輩! なんでさっちゃんの尻尾を枕にしてるんですか!?」


 おれはさっきから、サチの尻尾に頭を乗せている。


「こうしたら頭が楽だろうって、サチが勧めてくれたんだ」

「ずるい! わたしもやりたい!」


 ずるいて。


「カガミたちにしてもらえばいいだろ」

「成人すると毛がチクチクするみたいなので、ご遠慮します」

「でも、ここは渡さんぞ。今日はおれの特等席だからな」


 とても柔らかい。

 寝具にこだわったことはないが、こんな枕なら探してみようかな。


「もう、あとで交代ですよ!」


 ううむ。サチの意思はどこに。




 畑のほうで植え付けが始まった。


 まずは大部分を占める玉ねぎからだ。


 今回は初めてなので、種ではなく苗から育てる。

 それを畝に並べていき、根をしっかりと土に埋める。


 このとき、苗の太さを揃えることに気をつけなければいけないらしい。

 そうしなければ養分の吸収にムラができて、結果として小玉になってしまうのだとか。


 並べ終えると、男性陣で根元に土をかぶせていく。

 最後にしっかりと水をやって、この作業は終了だ。


 続いてルッコラ。

 これは比較的、簡単だ。

 種をまく。水をやる。

 あとは、サチやイトナに後日の手入れを任せよう。


 次はニンニク。

 種球を小片に分け、それをみんなで植えていく。

 とがった部分を傷つけないように、地面から先端を出して植える。


 そして春菊。

 これも植え方はシンプルだ。

 畝の中央に、等間隔で種をまいていけばいい。


「先輩、先輩」

「神さま、起きてください」


 身体を揺すられている。

 んあ、と目を覚ました。


 ……いかんな。

 風が気持ちよくて、いつの間にか寝ていたらしい。


「す、すまん」

「いえ、お疲れでしょうから。それより、植え付け終わりましたよ」


 まだ太陽は空にあった。

 事前に準備をしていたため、前回のジャガイモに比べて作業は早く終わったらしい。


「じゃあ、先輩。わたしたち、シャワー借りますね」

「おう。ゆっくりしてくるといい」


 岬、サチ、イトナの三名はアパートへ。

 その間に男性陣で、BBQの準備にかかる。


 できれば収穫した作物で楽しみたかったが、まだ育ってないからしょうがない。

 今回は柳原が契約している店から買い取ったものが中心だ。


 豚バラ、牛ステーキ。

 ナス、パプリカ、シイタケ、カボチャ、アスパラ、シシトウ、トウモロコシ、ミニ トマト、ズッキーニ、オクラ。


 先日、カガミたちが菜食主義だと知ったので、野菜が多めだ。

 これは彼らに、次に植えてみたい作物を聞く目的もある。


 柳原が下ごしらえをして、カガミが野菜を串に刺していく。

 いつもは料理はイトナの仕事なので、なかなか慣れない様子だった。


 おれは役立たずなりに、火の番をして手伝ったふりをする。

 事前にしっかりと燃やさないと、炭が弾けて食材にへばりついてしまうからな。


 バチ、バチ、と炭が弾けるのを眺めていると、向こうから岬たちが戻ってきた。


「お湯、いただきましたー」

「はいはい。なにか問題はなかったか?」

「いやあ、それが……」


 イトナが顔を真っ赤にして縮こまってしまう。


「イトナさんが、シャンプーをすごく怖がっちゃって」

「うん。それで、どうかしたのか」

「浴室から飛び出して、部屋がびちゃびちゃに……」


 つい笑ってしまった。


 サチによると、こちらでは髪を洗剤で洗う習慣はないらしい。

 汗の臭いを抑えるときには、香油などを用いると聞いた。


 サチは無知ゆえに簡単に受け入れてくれたが、やはり大人ではそうはいくまい。


「あ、ちゃんと水は拭いたので!」

「ああ、わかってる。これから慣れていけばいい」


 サチたちがBBQの手伝いに行ったあと、岬が神妙な表情で言った。


「あと先輩。ちょっと、ご報告が」

「どうした?」

「さっき、あのガラスのドームに、変な文字があったんですけど」

「へえ。レベルアップしたのかな」

「いいえ。なんだか、サイドエピソードが、なんとかって……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る