第102話 おれの実家に顔を出すだけだし


 GW2日め。


 山田村ペンション。


 いい朝だ。


 いや、嘘だ。

 もう昼過ぎだ。


 さっそく生活リズムが崩れてるなあ。

 ……まあ、別にいいか。


 みんなは明日からお出かけだけど、おれはお留守番だし。

 大人げないと言われようとも、おれは拗ねるもんね!


 ようし、あと一眠り……むむ?

 なんか身体が重いような……。


「おはようございます」

「……おはよう」


 朝一メリルである。

 人が寝ている間に馬乗りになって遊ぶのはやめてほしい。


「よい日和ですよ。起きてくださいませ」

「眠い」


 もぞもぞ布団を頭から被った。

 断固として二度寝の姿勢である。


 これに対し、メリルも徹底した抗戦の意を示す。

 具体的に言うと、ゆさゆさ揺すってきた。


「もうお昼ですよ。みなさまがお待ちです」

「……あと10分」


 ゆさゆさ。

 ゆさゆさ。


 この振動が、なんか心地いい。

 ゆりかごみたいだ。


 ……あ、これはいかん。

 ほんとに眠くなってきた。


「……むぅ。山田さま。頑固ですね」


 メリルがぷーんと拗ねている。


「それでは、わたくしも最終兵器を使わせていただきます」

「最終兵器?」


 なんだろう。

 目覚まし時計なんかは持ち込んでいないはずだが……。


「コホン」


 小さく咳をして……。


「起床になさいますか? 二度寝になさいますか? そ・れ・と・も……」


 ……それとも、なんだ?


 まさか、あの最強の新妻ムーブなのか?

 おじさん、昨日はチョコアイスと遊んできたから疲れてるんだが。


 にこっと微笑んだ。


「あと5分ほどで部屋に上がってくる岬さまに見つかってからの、手酷いお説教になさいますか?」

「起きる! いますぐ起きる!」


 この状況はいけない。

 朝一メリルの悪戯は慣例だが、それでも視線が冷たくなるのは仕方がないのだ。


「せんぱーい。さすがに起き……」


 岬がドアを開けた。


「……あ、もう起きてたんですね」

「お、おう。おはよう」

「おはようございます。それじゃあ、わたし下に戻りますね」


 ドアを閉めた。

 その裏に隠れていたメリルが、くすくす笑っている。


「岬もノックくらいしてほしい」

「スリリングでよいと思います」


 メイドお嬢さんは元気だなあ。


 ……しかし、よく寝た。

 昨日はけっこう運動したからな。


「本日のご予定は?」

「ちょっと実家のほうに顔を出してくる。晩ご飯もいらないから」

「かしこまりました。そのようにいたします」


 しずしずと差し出された。

 きれいに畳まれた服だった。


「ありがとう」


 それに着替えると、部屋を出た。


「神さまー!」


 サチだった。

 今日も尻尾がぶんぶんである。


「どこに行くんですか!?」

「今日は柳原とお出かけしてくるぞ」

「……ッ!!」


 ケモミミがぴーんと立った。


「サチも行きたいです!」

「ううん。今日はちょっとなあ」


 別にいいんだけど。

 でも、おれの実家に顔を出すだけだし。

 両親に近況を報告して、興味もないGW特番を延々と見せられるだけだぞ。


「たぶん明日からのお出かけの準備をしていたほうがいいと思うぞ」


 しかし、あの微妙な時間をわかれというのが無理な話だ。

 サチの行きたいアピールは過激になっていく。


「さーちーも、いーきーたーいー!」


 ごろごろ駄々っ子ムーブである。

 山田村お姉ちゃんポジもご返上の勢いだ!


「ハッ!」


 いかん。

 哭犬族の子どもたちが、何事かとわらわら集まってきた。

 このままでは、サチ軍団を連れて実家に行くことになってしまう!


「わかった、わかった。それじゃあ、一緒に行こうか」

「はいっ!」


 すっかりおねだり上手なサチであった。

 これは大人になったら、とんだ悪女の予感だな。


「それじゃあ、行ってくるぞ」

「いってらっしゃーい」


 アパートで、サチのお着替えを待つ。

 すっかり現代の洋服に着替えたサチと合流だ。


 それから、サチと一緒にアパートの前で待機。


「神さま! 今日は柳原さまも行くんですか?」

「そうだぞ。毎年、GW休みのときに顔を出してくれるんだ」

「山田さまのご実家と交流があるのですか?」

「還暦祝いのとき、あいつの店で食事したんだよ。それからすっかりファンになっちゃってな。年に一度、こうやって飯を振る舞ってくれるんだ」

「それはいい話だな!」


 そんな会話をしていると、目の前に黒いセダンが停まった。

 運転席から、いつもの仏頂面が顔を出す。


「よう。待たせたな」

「今年もすまん」

「いいさ。余所のキッチンで料理するのは、おれも楽しい」


 そっと視線をずらした。


「ケモミミ嬢ちゃんはわかるが、そっちも連れてくのか?」

「え?」


 振り返った。

 そこに、クレオとメリルがいた。


「わあ! びっくりした!」


 ぜんぜん気づかなかった。

 気配を消すのがうますぎるぞ。


「サチは知ってました!」

「マジか」


 おれが鈍すぎるだけだった。

 あと、気づいてたなら言ってほしいぞ。


「おまえたちも来るのか?」

「ああ。山田どのには世話になってるからな。一度、挨拶しておきたかった!」


 ええ。

 そんな気にしなくてもいいのに。


「山田さま。お土産もご用意しました」

「マジか」


 きれいに装飾された木箱だった。

 おそらく、ケ・スロー特産のお菓子だと思われる。


「ううん。まあ、いっか」

「おまえのその順応性、ときどき怖えよ」


 そうかな。

 別に減るものじゃないしな。


「神さま! はやく行きましょう!」

「はいはい」


 それでは、山田家GWツアー。

 さっそく出発だ。

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