第8話 レベルが上がりました


「岬がなにか言ったのか?」


 おれがあのゲームについて話しているのは、彼女だけだ。

 そういえば、佐藤は彼女と仲がよく、頻繁に飲みに行っているらしい。


「ちょっと、きみが変になっちゃったのかなって心配してて……」

「いや、おれは健康だぞ。どういうことだ?」

「詳しくは聞いてないんだけど、家でゲームするためにツルハシを買いに行くって本当?」

「ああ、そうだぞ」


 佐藤が眉を寄せた。


「ツルハシって、あのツルハシ?」

「ツルハシだ。先が尖っている農作業道具」

「それって、アパートの庭かどこかで畑を耕してるってこと?」

「いや、ゲームだ。家の中で使っている」


 だんだんと佐藤の顔が曇っていく。

 おれはなにか、わかりづらいことを言っているのだろうか。


「ど、どうやって使っているの?」


 その質問には、少しばかり困った。

 実際に開墾しているのだか、使用しているのはゲーム内の男性だ。

 おれがやっていることといえば……。


「地面に埋めると、勝手に使ってくれる」

「…………」


 佐藤は携帯を取り出すと、なにかアプリを起動した。

 表示されたのは、可愛らしい絵柄の戦士たちのゲームだ。


「ゲームって、こんな感じ?」


 覗き込むと、ステータスやキャラクターが表示されている。


「そうだ。こんな感じだぞ」


 まあ、まだレベル1だけど。


「ツルハシを使うの?」

「そうだ。今日は害獣の駆除剤を買って埋めるつもりだ」


 佐藤は渋い顔で、タバコの火を消した。


 なぜか精神科医を紹介されてしまった。

 旦那と子どもの親権を争ったときに通っていたらしい。

 そんなプライベート聞きたくなかった。




 仕事を終えると、おれは駆除剤を買って帰った。

 ちなみに今日、岬は外回りからの直帰ということで、あれから会っていない。


 さて、どうなっているのか……。


 うわ、なんじゃこりゃ。

 ステータス画面の他に、いくつもの文字列が表示されていたのだ。



―レベルが上がりました―

◇名無し 村 

  ◆レベル   2(次のレベルまで50ポイント)

  ◆人口    3

  ◆ステータス 正常

  ◆スキル   なし


―村の名前を決めてください―

(    )村


―以下から、新しいスキルを選択してください―

◆開拓速度アップ

◆モンスター出現率ダウン

◆気候変化抑制C



 レベルが上がったらしい。

 駆除剤がすべて消えていた。

 どうやら、モグラはすでに解体したあとのようだ。


 どれどれ。

 まずレベルが上がったらしいが、ううん。


 なにも変わってないじゃないか。

 てっきり、もうひと家族くらい増えるもんだと思ってた。


 そして村の名前か。

 決めてくれと言われても、どうすれば決めたことになるんだ?


 この前のように、ガラスの表面を突いてみる。

 しかし、一切の反応がない。


 もしかして、ペンかなんかで書けってことか?

 おれは慌てて近くのコンビニで油性マジックを買ってきた。


 しかし、なんて名前にしようか。


「……山田村とかでいいか」


 その途端だ。


―山田村に決まりました―


 まさかの音声認証。

 うっかり書き始めて『山』だけガラスに残ってしまった。

 水性ペンにすればよかった。


 しかし、音声認証とはすごいな。

 まあ、携帯だってシ〇とお話できるらしいし、特に不思議なことじゃないのか?


 そして、いよいよスキルだ。

 この三つのスキルからして、どれも開墾に必要なものらしい。


 まず『モンスター出現率ダウン』。

 これは駆除剤が機能しているようなので却下。


 そして、『気候変化抑制C』。

 この四日間、晴れの日しか見たことない。

 まあ、昼間は違う可能性もあるが。


 まあ、これは選ぶまでもないな。

 おれは『開拓速度アップ』を選択した。


 選択したが、どうやれば選択したことになるのか。

 先ほどと同じように、声に出してみる。


「開拓速度アップ」


 すると画面に表示された。


―開拓速度アップを取得しました―


 ううむ。

 なんだか、独り言が多いひとみたいで嫌だなあ。

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